Quantcast
Channel: a + e(建築と食べ物)
Viewing all articles
Browse latest Browse all 125

「空の森シンポジウム」聴講

$
0
0
六本木のアクシスギャラリーにて開催された「空の森シンポジウム」を聴講。

昨年11月に沖縄県に開院した《空の森クリニック》は、いわゆる従来の医療施設のイメージとは全く異なる医療施設である。それを実現したのは、先ず「デザイン」を根幹に据えたこと。登壇した関係者の主な発言を備忘録として以下にまとめておく。

登壇者(敬称略):徳永義光(医師、医療法人杏月会代表、)、佐藤卓(佐藤卓デザイン事務所代表取締役)、手塚貴晴、由比(手塚建築研究所代表)、黒塚直子(画家)

空の森クリニック」は、生殖医療ーー不妊に悩んでいる人のための医療施設。施主である徳永医師が、同県糸満市で2005年に開業した ALBA OKINAWA CLINIC が前身である。ピーク時で初診待ちだけで半年、待合室に入りきれない来院者が駐車場の車の中で待つなどキャパシティの限界状態となっていた頃、建て替えを考えた徳永医師が、地元のグラフィックデザイナーの推薦を受けて、それまで面識がなかった佐藤卓氏に相談した、という経緯が最大の特筆点。ちなみこの時点では、糸満から東に6kmほど離れた島尻郡八重瀬町に移転することになる敷地も未だ見つけてはいなかった。
シンポジウムの冒頭、佐藤氏に紹介されて登壇した徳永医師が、現在の医療の問題点、生殖医療について解説。
徳永医師は来院者を「ゲスト」と呼ぶ。何故ならば不妊は病気ではないからだ。その約半数近くが原因不明(男性不妊40%を除く)であり、負の要因としてストレスが考えられるため、心身ともにリラックスした状態でゲストに滞在してもらい、プライバシーも護りながら高度の医療も提供したいーーこの明快な理念をカタチにすべく、佐藤氏がオーガナイザーとなって2012年1月に「空の森プロジェクト」構想がスタートする。

シンポジウム会場には「空の森クリニック」のS=1/200全景模型なども披露された(上と左の画は敷地西側からの俯瞰)
模型中央の白い長方形が手術室で、その周りを平屋のゲストルーム、診療室、ナースステーション、スタッフエリア、ライブラリー、カフェなどが囲む。建物の北西側は駐車場(沖縄は車社会)。 東から南にかけては緑(森)が広がっている。

ゲストの気持ちを少しでも癒すようなリゾートのような空間、というイメージは、かなり最初の段階からあった。佐藤氏から設計を依頼された両手塚氏らは、最高級のホスピタリティを体験してみようと、インドネシア バリ島にある《アマンダリAmandari》に(「自費で」)宿泊している。"心の平安"を意味する最高級リゾートでの実体験は、PJに少なからず影響を与えた。


何の予備知識なく、全景模型と竣工写真(下の画)を見せられたら、10名中10人が「高級リゾート」と思うだろう。だが、手塚が建設予定地を視察した際は「渺々とした荒野」だったという。
「クリニックというよりも、沖縄のこの地にイチから豊かな森をつくる」+「空」という、佐藤氏が提案したコンセプトは、徳永氏が抱いていたビジョンと驚くほど合致していた。「空」は自由で無限に広がるsky(そら)であり、モノや人の器にもなるempty(くう)の意も含む。「ファンタジックな設定に最初は戸惑った」という手塚氏だったが、沖縄という土地が背負ってきた歴史と《Amandari》での体験も踏まえたうえで、木造の平屋にこだわった、半屋外が殆どという、医療施設としては希有な空間を設計した。
沖縄では現在、コンクリート造が多い。実は近年まで木造建築の伝統が脈々とあったが、70年前の戦争により、断絶してしまった。「空の森PJ」は、この地から木造文化を復活させる第一歩であり、それを支える木を植え、これから長い年月をかけて森を育くんでいく。
ゲストルームの部分模型。ぐぐっと下げ、奥行きも2m以上ある軒は南国の強い日差しと大粒の雨を遮ってくれる。雨音は耳に心地良いほどだという。手塚由比氏は「快適な空間とは何かを考えた時、自然から感じる快適さには適わないと《Amandari》で思った」という。また神戸での《チャイルド・ケモ・ハウス》や、初期の《副島病院》での経験から、手塚夫妻は「理想とする病院は家ではないか」と常々考えていた。《空の森クリニック》では、高度な医療設備をコアに集中させ、その周辺に「建築をつかってどれだけ"外"をつくれるか」を突き詰めて、建物を配置した。夫妻は「アマンリゾートを上回るものが出来た」と胸を張る。
空の森クリニック」全景模型、南側からの俯瞰
Google mapで表示される画と同じ方位)

内でも外でもない中間領域=空間をグラデーション化させた半屋外のデザインは、広々とした待ち合い室などでも踏襲されている(レイアウトおよび内外観の写真:公式サイト〜施設のご案内。開院から半年、その効果のほどを、徳永医師は次のように語った。「1日の来院者数平均は135人。お待たせしないようにはしているが、待ち時間が苦にならなくなったようだ。診察時間がきて、ゲストを呼び出してもなかなか現われないこともある。訊けば、待合室で寝ちゃってたという人も」。そして「雨の日が良い、と皆さん仰います」とのこと(雨の日の病院はフツウ空いていることを思えば驚異的)。なにより、妊娠したゲストの人数が倍に増えた。
驚嘆することばかりの「空の森クリニック」でのデザイン事例。上の画は、同クリニックの来院者が最初に目にするサインである(夜間)。大きな自然石の上に文字はなく、ただ「輪」だけがある(参考:公式サイト〜空の森クリニックとは/佐藤卓氏によるコンセプトおよびロゴデザイン解説)
「空の森」のコンセプトを立ち上げた当初から、佐藤氏の頭の中には(下の画のような)大きな樹が空に浮かんでいるようなイメージがあった。それを具現化したのが、画家の黒塚直子氏である。銀座にあるギャラリー「巷房」で、佐藤氏は何度か個展を見ており、藍色を基調とした黒塚ワールドと、今回の「空の森」のイメージがピタリと嵌った。
後にクリニック全体のアートワークを担当することになる黒塚氏は、佐藤氏から打診があった時、「私の作品で本当にいいのかしら」と思ったという。他所の医院に飾る絵画の制作を過去に引き受けたことがあり、その際に色は藍ではなく例えばピンク、ファンシーで明るい作風を望まれたことがあるからだ。だが、佐藤氏は「黒塚さんしかいない」と確信しており、徳永医師も「子どもが重要なワードとなる生殖医療の場ではあるが、あえて大人っぽいイメージにしたい」という想いがあった。こうして、黒塚氏いわく「レイチェル・カーソンの『The Sense of Wonder』をイメージした」というキービジュアルが出来上がった。
メインビジュアルのほか、黒塚氏が描いた絵は、いかにも"受付然"となるのを回避した開放的なエントランス、カーテンではなく簾を下げた診療室、ゲストルーム、ライブラリーなど院内あちらこちらに飾られている。さらにはスタッフの名刺、レターセット、うちわスタッフに1冊ずつ配布されるコンセプトブックでも展開。それまで専ら個展のために制作していた黒塚氏にとって、佐藤卓デザイン事務所とのタッグは新鮮だったようで、「次にどう仕上がってくるか、毎回楽しみだった」とのこと。当初はサイズ感が大きすぎるのではないかと難色を示していた、屋外に置くやきものオブジェも結局は現地の窯で焼き、まるでハナから廃墟の中に埋もれていたかのように、ランドスケープデザイナーが手掛けた"森"の中に点在している。これらのアートワークから、絵本『空の森』も誕生した(リトルモア、2015)
先ほど、他の医療施設では「明るく元気な色調」が好まれると記したが、生殖医療の現場で配慮すべきことのひとつに、全員が子どもを授かる訳ではない、というシビアな現実がある。入院中に授からなかった6-7割の人々の気持ちにどう寄り添うか、徳永医師が常に心を砕いてきたことだ。医療施設に限らず、ハコモノでは往々にして後付けになりがちなデザインやアートを、クリニック建設の最初から根幹に据えた理由がここにある。作曲者は今回登壇しなかったが、村上ゆき氏によるオリジナル楽曲も制作されている。BGMが静かに流れるクリニックで働くスタッフは、白衣ではなく沖縄の藍で染められ、職種ごとに機能的にデザインされたなオリジナル・ユニフォームを纏う。カフェでは、森を散策した時に足元から聴こえてくるサクサクとした葉音をイメージした焼き菓子も用意しているという。
これら画期的デザインを推進した佐藤氏は「デザインとは人のために何かを考えること」と言い表し、そのひとつひとつが結集して「ありそうでなかったものができた。それは、デザイナーが日々つくろうとしているもの」と今回のPJを振り返る。手塚氏も「関係者間で、難しい言葉をひとつも使わずに済んだのが印象深い。自分が欲しいものは何かを考え、シンプルに突き詰めて、僕らは当たり前のことをしただけ」と佐藤氏に同意する。そして「よく使う」という"I believe Architecture."という言葉を例にーー「建築家がちょっと頑張れば、仮に病院でも大きく変わる」可能性があることを、今回の事例で示してみせた。
元は"渺々と"していた土地に、いのちと正面から向き合うクリニックを中心として、全く新しい"森"が生まれつつある。
空の森クリニック」では"当たり前"のことが、およそ大多数のニッポンの医療現場から欠落しているのが厳しい現実(だが、手塚氏いわく「デザイナーや建築家の主張が入り過ぎるとうまくいかない」とのこと)。そんな発言の数々を聞きながら、半年前に見た企画展「活動のデザイン」を思い出した。
数々のデザイン提案にGOサインを出した徳永氏は、シンポジウムをこう締めくくった。「その都度で増えていく、新たな森をまもるために、僕らは日々働いているのかもしれない。医療とは腕を試すものではない。人のために成すもの。その意味では、医療もデザインである」。

医療法人 杏月会「空の森クリニック」公式サイト
http://soranomori.info/




+飲食のメモ。
六本木ヒルズで18日から始まった「かき氷コレクション」へ。ヒルサイド2階の[ヒルズカフェ/スペース]に、昨年も出店した2店舗+3店舗=名だたる5店舗が期間限定で営業中。
営業は11時から21時まで(20時半L.O.)。売り切れたメニューもあるが、会期2日めの土曜日でも18時半過ぎと遅かったせいか、並ぶことなくすんなり入れた。
入口で食券を買い、中のカウンターで注文するシステム。
本店舗では天然氷で提供している店もあるが、イベントでは全て純氷と横並び。会期途中で入れ替えもあり、栃木県宇都宮市から初出店の[Patisserie Merci(パティスリーメルシー)]も8月2日までの営業。
卵にこだわった店らしいので、幸いにして未だあった「ケーキ屋さんのミルクセーキかき氷」をいただく(消費税込800円)。 氷はけっこうなボリューム、2人でシェアしてちょうどいいくらい。
おいしゅうございました。ごちそうさまでした。

ダイハツ ウェイク presents「かき氷コレクション」
www.tv-asahi.co.jp/summerstation/area/shave-ice/

Viewing all articles
Browse latest Browse all 125

Trending Articles