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「伊東豊雄展 ライフスタイルを変えよう -大三島を日本で一番住みたい島にするために-」@LIXILギャラリー2

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大三島(おおみしま)は愛媛県今治市の沖合、瀬戸内海では五番目の面積の有人島で、人口約6,200人が暮らす。本州・広島県尾道市と四国・今治市を結び、2006年に開通した西瀬戸自動車道瀬戸内しまなみ海道の中間に位置する。
本展は、伊東氏が塾長を務める伊東建築塾の塾生有志らが2012年から取り組んでいる「日本一美しい島・大三島をつくろうプロジェクト」の最新を紹介するもの。会場の中央に置かれている変形のベンチは、大三島を模したもの。
しまなみ海道が通り、大三島インターチェンジが置かれているのは島の東側。反対の西側には、今治との連絡船が付く宗方港と、その北側に、2004年に開館した現代彫刻作品を中心とする美術館《ところミュージアム大三島》と、2011年にオープンした《今治市伊東豊雄建築ミュージアム》がある。

同PJは伊東塾の2015年度塾生限定講座カリキュラム(外部講師:塚本由晴、篠原聡子、柳澤潤、安東陽子、金田充弘、迫博司、東海林弘靖、藤江和子)にも組み込まれ、既に開講式、現地合宿が行なわれている(参照:伊東建築塾ブログ
"神の島"とも呼ばれる大三島。大資本に頼らず、今ある美しい自然と景観を損なわずに、島の内外の人びとがゆるやかに集い、交わる小さな場所づくりを大前提としている。提案は、島にふさわしい「みんなの家」や、ワイナリー、交通インフラ、休憩所、宿泊施設、カフェ、インフォメーションセンターなど複数。
これらは島や市から依頼されたものではなく、あくまで塾が独自に掲げたテーマに基づく。
今月3日からは《今治市伊東豊雄建築ミュージアム》にて、前年に引き続き「日本一美しい島・大三島をつくろうプロジェクト2015」も開催されている。


LIXILギャラリー2での 伊東豊雄展「ライフスタイルを変えよう -大三島を日本で一番住みたい島にするために-」会期は8月22日まで(水曜、8月12日-16日休館)。開廊は10-18時、入場無料。

LIXILギャラリー
http://www1.lixil.co.jp/gallery/

「金沢の町家 −活きている家作職人の技−」@LIXILギャラリー1

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これまで大きな戦災や震災などに遭わなかった金沢は、加賀百万石の城下町たる屋敷群や、うなぎの寝床式の町家が連なる町並を市内の一部に残している。本展では、金沢の伝統的町家建築をつくり、まもっている職人たちと、その見事な手技の一部を紹介。

会場は大きく分けて7つ。左官、大工、石工、建具、表具、畳、瓦の伝統技術と職人を紹介。職人たちへのインタビュー映像もあり。
「左官」のコーナー。
左の展示は、竹で編んだ「小舞」に始まる土壁制作の工程見本。振動や衝撃の力を分散させる「ひげ巻き」という金沢独自に培われてきた仕様がみられる。ほか、職人がふだん使っている道具類も展示。種類の多さに圧倒される。鏝の鋼が美しいが、ケースに収めたばかりのスタート時には今よりもっと輝いていたそうだ。
「大工」のコーナー。
テーブルに置かれた「継手・仕口模型」を作ったのは、パネルの中に人物。先に完了した金沢城復元整備事業のうち、「五十五間長屋」、「橋爪門続櫓」、「鶴丸土塀」を手掛け、続く「河北門」と、134年ぶりに復元された「橋爪門」では棟梁を務めた安田正太郎氏。
「石工」コーナーの石垣模型。金沢城石垣は「打ち込みハギ」や「切り込みハギ」など、約400年前のものとは思えない、実に大胆で多彩な石積みで知られる。昔の城の石積みや民家の土台は、現代の法規からは外れるものの、よほど優れた免震構造になっているものもあるという。
この「石垣模型」は、職人の技を受け継ぐ人材育成を主な目的に、1996年(平成8)に開校した金沢職人大学校で教材として使われているもの(開校当時の入学視覚は35才以上50才未満の技能経験者で、前述・安田氏は第一期生)。展示品のなかには同校のコレクションもあるが、殆どが職人たちがそれぞれ所有しているもの。この「石垣模型」の隣のケースには(過日に旧《千代田生命本社ビル》見学ツアーで施工例を目にした)ビシャン叩きで使う槌や、石をはつる工具類もあった。
「建具」に展示されていた、6種類の「桟」の模型は、会場でどれだけ目を凝らしても、違いがわからないくらい微細な仕上げ。松葉菱の組み子見本も見事だった。その横には「板摺り」を施した板のサンプル。このように、会場は現代の住宅では滅多にお目にかかれない技のオンパレード。上の画・右端のパネルは、障子の一部にアクセントで色ガラスを入れた事例写真。建具が歪まないよう、縦桟に緩やかなカーブが施されている。
襖や屏風、掛け軸などが属する「表具」。おもてぐ、というから勘違いしがちだが、職人さんいわく、「襖の格は表ではなく、中身で決まる」という。仕上がって納品されれば、その技は次に修復の時を迎えるまで目に触れることはない。
思わず、"漫画『ドカベン』の主人公のお祖父ちゃんの職業"を連想してしまった畳屋さんも、今はすっかり目にしなくなってしまった。我が町にも1軒残っているかどうか。
下は「瓦」のコーナー。原寸図や鎚など。近年に三州瓦に席巻される以前、雪深い金沢では独自に発展した瓦の歴史がある(図録BOOKLET『金沢の町家 活きている家作職人の技』に収録。ほか本展に協力した職人たちの下積み時代から現在至る修練の日々や、「伝統技術をいかに継承するか」と題した安藤邦廣氏の論考、7年前に金沢の町家のリノベーションを手掛けたアトリエ・ワン/塚本由晴氏の談話など)
どんな市場でも、需要がなければ作り手は育たない。特殊な道具類をつくる職人達や、質が保証された原材料の確保できなくなる。既存の建物も、手を入れ続けなければ確実に傷み、やがては伝統の技術ともども失われる。 金沢市内には町家や城、寺社などの歴史的建造物が他所に比べて数多く遺され、これらの修復や復元などの実際の現場を通して、技術をが伝承され、職人が育成されつつあるという。 これを、幸いというべきか。

会期は8月22日まで(水曜、8月12日-16日休館)。開廊は10-18時、入場無料。

LIXILギャラリー
http://www1.lixil.co.jp/gallery/




+飲食のメモ。
首都高速を挟んでLIXIL:GINZAの南側にある、「コージーコーナー銀座1丁目本店」にて、夏限定・宮古島原産の塩を使った"雪塩スイーツ"「夏の生クリームシュー」をテイクアウト(1個 消費税込み135円)。2階から上にカフェもあり、11時から21時まで営業(L.O.20時)
おいしゅうございました。ごちそうさまでした。
これはこれでおいしかったが、コージーといえは時々、定番の"ふにゃっふにゃ"のジャンボシュークリーム(註.けなしてないです)を口いっぱいに頬張りたくなる。

銀座コージーコーナー
www.cozycorner.co.jp/

「動きのカガク」展@21_21 DESIGN SIGHT

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21_21 DESIGN SIGHTで6月19日から始まっている企画展「動きのカガク」をみる。

展覧会ディレクター:菱川勢一氏プロフィール、ディレクターメッセージ
企画協力:ドミニク・チェン氏
展覧会グラフィック:古平正義氏。

参加作家は15組。そのうちエントランスに展示された、メルセデス・ベンツ日本(株)出品の1885年製「ベンツ・パテント・モトールヴァーゲン(レプリカ)」と、下の画のあわせて2作品のみ、入館料なしでも観ることができる。
註.出展作品は動き(MOTION)を伴う作品ながら、以下・数点の静止画のみ掲出にてご容赦のほど。
鈴木太郎「そして、舞う」2014-
キャプションボード。作品がどんな材料や工具を使って制作されたのかがわかるようになっている。作品概要は、約10cm角のポストイットに本展ディレクターを務める菱川氏が和・英文で手書きしたもの。
クワクボリョウタ「ロスト #13」2015
註.こちらの作品を撮影する場合、AF補助光発光禁止
ジモウン「124のdcモーター、コットンボール、53×53×53センチのダンボール箱」2015
体験型作品 パンタグラフ「ストロボの雨をあるく」2015
沼倉真理「レイヤー・オブ・エア」2015
生永麻衣+安住仁史「リフレクション・イン・ザ・スカルプチャー」2015
上下動+複雑な動きを繰り返す「リフレクション・イン・ザ・スカルプチャー」は、MITSUBISHI CHEMICAL JUNIOR DESIGNER AWARD 2014 審査委員特別賞坂井直樹賞受賞作品。ウッカリすると見過ごしそうな通路に展示されている。

動きのカガク」展は9月27日まで。今のところ週末の時間延長はなく、開館は11-19時(入場は30分前まで)。火曜日休館(9月22日は開館)。会期中、各種関連プログラムあり。

21_21 DESIGN SIGHT
www.2121designsight.jp/




+飲食のメモ。
会場および東京ミッドタウンを出て、《国立新美術館》方面へ。今年2月にオープンしたハワイアンパンケーキ専門店「FORTY NINER HAWAII」にて軽食。

オアフ島の老舗パンケーキが日本初上陸、というふれこみの店。ロコモコや甘くない食事系パンケーキなど各種あるが、先ずは店名を冠した「フォーティナイナーパンケーキ」をオーダー(諸費税込み1,652円、ブレンドコーヒーは、以前もらったチラシのサービス券が使えた)

ココナッツ風味のハウピアソースがどっちゃりとかかっているので甘そうにみえるが、そうでもない。生地は3枚重ねとボリューミーなので、結局ソースを余すことなく使い切る。

おいしゅうございました。ごちそうさまでした。

FORTY NINER HAWAII
http://49tokyo.com/

「食と緑の空中庭園」@池袋西武本館9階屋上リニューアル

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西武池袋本店本館9階の屋上がリニューアル、4月29日から「食と緑の空中庭園」としてオープンしている。
印象派の画家モネの作品「睡蓮」をイメージしてデザインされ、"空のほとりで逢いましょう"と銘打った空間は、日没後の夜間になると特に、一昔前の"デパートの屋上"という雰囲気ではなくなる。

アートディレクション:廣村デザイン事務所
環境デザイン:アースケイプ(同社公式サイト〜works
郎計デザイン:トラフ建築設計事務所(同社公式サイト〜works
照明デザイン:LIGHTDESIGN(同社公式サイト〜REVIEW
造園設計・施工:日比谷アメニス
設計・施工・建物管理:竹中工務店
(株)そごう・西武 4月13日発行ニュースリリース(PDF)より

屋上の広さは約5,800平米。レストラン&バー「La Terrasse」と、フードカート10店舗が夜22時まで営業(7,8月は22時半まで、悪天候の場合は閉場)。席数は通常で120席。イケセイ屋上名物の讃岐うどん「かるかや」も改修後も引き続き営業している(但し20時閉店)
上の画・左上の白い部分はLOFTや山野楽器が入っている本館9階(ロフトの一部とグリーンショップの改修もトラフ建築設計事務所が担当)。画面右側・パルコ側に設けられた"睡蓮の池"へと横に長いレイアウト案内図。池の奥には稲荷神社が祀ってある。ほか、観賞魚販売店、ガーデニングショップ、キッズデッキなどあり。
屋上には睡蓮を模した円形デッキが幾つか点在し、夜間はデッキやテーブル下に仕込まれた間接照明が点灯する。サークルがデザインの基本形となっており、各所で目にする。

センターラウンジ、水が張られた"ウォーターテーブル"。夜だと視認が難しいが、水盤の中央に蓮の花が浮かび、底には屋上の床と同じモザイクタイルが貼られている。
雨あがりはデッキがしっとりと濡れて、間接照明の色がより美しい。
日が完全に落ちた後の照明はローズだが、その前はブルーらしい。夕刻は"ブルーガーデン"、夜間は"ローズガーデン"となる。下の画は4日前の18時20分頃。
夜間ではわかりにくいが、グリーンが多いのも今回の改修ポイントのひとつ。また、床にはブルーを基調としたモザイクタイルが敷き詰められ、全体で水面をイメージしている。ところどころに描かれた、印象派の絵画をモチーフにした絵柄をみるなら日中がベスト。
複数人で利用できる大きな屋外家具:パラソルテーブルはベルギーのextremist社製。
ポール灯はルイスポールセン製の「LP Nest」(デザイン:ビュストラップ・アーキテクツ。実際の使用例を初めて見たが、あたかも街路樹のようでばっちり。
1年を通じての季節の花が楽しめるという"睡蓮の池"のデッキの上から、屋上全体の眺め。初回訪問時は梅雨時の金曜21時前後。雨あがりだったので、思いのほか人が少なく、シックな雰囲気を楽しめた。
トイレは"睡蓮の池"側と、本館9階側に2カ所あり。サイン計画は、この空中庭園全体のアートディレクションを手掛けた廣村正彰氏と思われる。
驚異的に細かい分別指示をサインで表現したゴミ箱。ボックスは森林保全プロジェクト「セブンの森」の間伐材で作られたもの。
「空中庭園」のちょうど中間辺りのサイン。平素は赤い消火栓もここでは違和感ない緑色。
屋上4カ所に設けられた"グリーンウォール"の総全長は165m。月ごとに季節の花が植え替えられる。
エレベーター乗り場付近のサインはよりわかりやすく。
センターラウンジのウッドデッキ、睡蓮の池、本館との出入り口付近にはスロープが設けられ、バリアフリーになっている。
ドリンクの自動販売機付近のサイン。
10時の百貨店開店と同時にこの「空中庭園」もオープン、7,8月は22時半、9月と,5-6月は22時、10-4月は20時まで営業(フィッシュショップとガーデニングショップ、讃岐かるかやは20時まで)。夏季は"天空のビアテラス"が大盛況だとよく聴こえないが、大江千里が選曲した環境音楽も静かに流れている。




+飲食のメモ。
フードエリア:レストラン&バー「La Terrasse」と「かるかや」以外の9店舗のフードカートは、フロアの中央付近に横一列に並ぶ。
「La Terrasse」は季節ごとにメニューが変わり(例:5月はイタリアン、6-8月はスペイン料理)、フードカートも7月は各店でエスニックメニューを展開。
フードカートは寿司、パスタ、ピザ、ホットドックなど、腹にたまる和洋中メニューのほか、イケセイ用に490円でSサイズを用意しているベルギーポテトの「POMMEKE」もあり外苑西前店はMサイズから)

右の画は、主にケータリングサービスのみで店舗はここだけという「ココの台所」の定番メニューの甘辛いタレ付き豚焼き400円(オリオンビールとセットで950円)。これにゴハンが盛られた「シシリアンライス」は"佐賀県ご当地グルメ"とのこと(参考:佐賀観光協会の案内

一部はテイクアウトも可。但し、ホテルオークラが出店しているデリカ「TARVEN」の「プレミアムソフトアイスクリーム」は、売り子さんが「溶けやすいですのでー」と手渡した通り、ブツ撮りの猶予もなく、アッという間にダラダラダラと溶けて、空席を探してあわあわしている間に手がクリームだらけになるので要注意。600円するだけあって味は濃厚、コーンはクッキー生地という高級仕様。

おいしゅうございました。ごちそうさまでした。

池袋西武「食と緑の空中庭園」
www.sogo-seibu.jp/ikebukuro/roof_garden/

「計算するオリガミ 舘知宏 かたちの探察」@竹尾見本帖 at ITOYA

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文房具専門店の伊東屋の銀座本店が、2年と数月に及んだビルの建て替え工事を終え、先月6月16日に「G.ITOYA」としてグランドオープン。

地下1階にオープンした展示ホールや、11階の人工農場+12Fのカフェなどいろいろと話題。7階には(株)竹尾と伊東屋による「竹尾見本帖 at ITOYA」もできた。併設のイベントスペースでは今後、"出逢ったことのない、今まで知らなかった紙の世界"を切り口に、紙のクリエイティビティを喚起させるような企画展を開催していく予定とのこと。
オープニング展は「計算するオリガミ 舘知宏 かたちの探察」。

会場に展示されている立体作品は、全て綿密な計算に基づく平面展開図を、1カ所も切ることなく、折ってつくられたもの。
出展者の舘 知宏(たち ともひろ)氏の肩書きは、東京大学大学院総合文化研究科の助教(所属先:広域システム科学系。以下の作品・フリーフォーム・オリガミとは、JSTさきがけの支援を受け、「物理ベースデザインのためのインタラクティブ情報環境の構築」をテーマに、舘氏が研究開発したもので、舘氏のサイトに作品画像ソフトウェアも公開されている(会場 作品キャプションより)
舘 知宏「フリーフォーム・オリガミ(膨張)」(2015)不切凸多角形一枚折り

「フリーフォーム・オリガミ(変形)」(2015)不切長方形一枚折り
「フリーフォーム・オリガミ(成長)」(2015)不切多角形一枚折り
「フリーフォーム・オリガミ(隆起)」(2015)不切多角形一枚折り

1枚の平面=紙からホントにこんなにもでこぼこした複雑な立体が折れるのか?! と複雑怪奇な気になるが、ホントらしい。会場では、実際に手で折られ、徐々にかたちを成していく過程を早回し映像で観ることができる(にしても、スゴイ)。
「オリガミ・スタンフォード・バニー」(2008)不切凸多角形一枚折りによる兎の立体。
計算折紙の究極のかたちとして、"任意の立体形状を一枚の紙で折る"という問題を、オリガマイザ(解説は下の画を参照)を用いてクリアした作品。
G.Itoya」については各種メディアでも概要が伝えられているが、此処に無ければ他所にはないだろう的な、これまで築き上げてきた信頼感に裏打ちされた、伊東屋独自の"目利き"によって選ばれた文房具のショールーム、といった感。4万点に絞ったという商品の見やすさ、手に取りやすさを最優先したセレクトショップのような新たな構成に。




+飲食のメモ。
同館12階の [Stylo] にて軽食。全粒粉スキーとしてはホールウィートのパンケーキ(消費税別¥1200)と迷ったが、ここはしょっぱくサラダをセレクト。4-5種類あるなかから「イチジクとブルーチーズのサラダ」を食す。
大きなボゥルにこんもりと、ボリュームは2-3人前。キャラメリゼされた胡桃がアクセントになって(真似しよう)、バルサミコソースもおいしい。但し、パンなどは付かないので、コレ1皿で空腹が満たされることはナイ。消費税別で1,600円、辛口ジンジャーエールは600円。朝8時から22時まで全体にお高いのは、ザギンならではの価格設定。+床の下11階にあるFARMの設備維持費かしらんと邪推される。
最新の野菜工場のウインドウを囲っているのは、旧本店時代の窓枠。
最上階フロアだが、元から細長い敷地で窓ガラスがセットバックしているので、広角の眺望はのぞめない。このまま強気の経営路線でいくのかどうか、今後の展開が興味深い。
ごちそうさまでした。

Cafe Stylo(カフェ スティロ)
www.ito-ya.co.jp/ginza/

坂茂氏講演「アイカ現代建築セミナー」聴講メモ

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アイカ工業主催「第61回 アイカ現代建築セミナー」を聴講。講師は坂茂氏。

定員772名の会場有楽町朝日ホールは満員御礼。駆け込み入場者の着席を待ってから、約5分遅れでほぼ定刻に開演。短い主催者挨拶を挟んで「作品づくりと社会貢献の両立を目指して」をテーマに坂氏による講演スタート。

前フリも見事に時おり洒脱なジョークも交えながら、1時間で過去の作品事例から最新の《大分県立美術館》まで一気に語り、後半は日本を含む世界各地の災害被災地での仮設住宅づくりの話。スピーディな展開を20時にいったん締めくくった後、質疑応答に。

場内撮影禁止につき、以下は質疑応答も含めた聴講時のメモ。

登場した主な作品:「アルヴァ・アールト展」会場構成、家具の家、紙の家(自身の別荘)、小田原パピリオン、ハノーバー国際博覧会2000日本館、ノマディック・ミュージアム、カーテンウォールの家、2/5ハウス、ピクチャー・ウィンドウの家、VILLA VISTA、ニコラス・G ・ハイエック センター、メタル シャッター ハウス、ポンピドー・センター内期間限定仮設パリ事務所、ポンヒドー・センター・メス、韓国驪州のクラブハウス、アスペン美術館、大分県立美術館、紙の教会(カトリックたかとり教会仮設集会所、後に台湾地震被災地に移築)、ルワンダ難民キャンプにおけるシェルター、スマトラ、インド、伊ラクイラ、ハイチ、における仮設住宅、紙の間仕切り@大槌町体育館、コンテナ多層仮設住宅@宮城県女川町、成都市華林小学校紙管仮設校舎・四川大地震復興プロジェクト、クライストチャーチ大聖堂

・仮設住宅は紙で建てることが第一の目的ではなく、土台とするビールケースも含めて現地にあるもので建材をまかない、簡単に建てられて、かつ構造などの安全性もクリアしていることが大前提
・コンテナで構築した《ノマディック美術館》もそっくり移動する必要はなく、国際規格であるコンテナを巡回先で調達すればよい
・使い手が愛し、誇りとしてくれる建築をつくることに、仮設・公共を問わず同等の喜びを感じる
・金儲けのために作られた建築は例えコンクリート造でもパーマネントにはならず、仮設で終わる(例えば築50年で取り壊された《赤プリ》など)
・愛される建築を建てるには、1にクライアントの要望をきちんと聞く、2つにはコンテクスト(場所性)の良さを引き出す
・心地よい建築(住宅)の条件は、1つに光と風が感じられる自然換気ができ、2つには中間領域をもった空間(中間領域とは、なにも日本の縁側空間だけでなく、カフェのテラスなど国際的に共通する)
・仮設住宅で難しいのは、悪過ぎても、良過ぎ=快適過ぎてもダメということ
・現地を見ずに(気候条件などを確認せずに)他所での成功例を徒に持ち込んでも失敗する(トルコの被災地での経験)
・現地の気候・建材・宗教などが絡み合うため、仮設住宅を単一的にユニット化することはできない
・被災地に駆け付ける初動時の費用は全て持ち出し。寄付が集まってからでは間に合わない
・"名乗らずに去る"のを美徳とする日本人的ヒロイズムは国際社会では通用しない。効果をきちんと説明し、必要なパブリシティもうたないと絶対に理解されない
・自分の考えを相手に理解してもらうプレゼン力、論理構成は学生時代に養う必要がある


あと1名の質疑でラストという段で、坂氏が「新国立競技場の質問が出なくてホッとしました」という絶妙な間でのジョークを発す。場内爆笑し、講演は終了。
来場者向け配布物のなかに、今秋10月に現在の練馬から西新宿のNSビル22階に東京ショールームを移転するとの案内あり。三つ折りの講師略歴とともに、開演まで臨時営業の飲食スタンドでKEY COFFEE(400円)を味わう。出店はホール利用のオプションメニューだそうだが、サンドウィッチやバームクーヘンもあり、18時半の開演に間に合うよう、勤務先から直行したとみられる来場者の空腹を満たしていた。

アイカ工業(株)
www.aica.co.jp/

「空の森シンポジウム」聴講

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六本木のアクシスギャラリーにて開催された「空の森シンポジウム」を聴講。

昨年11月に沖縄県に開院した《空の森クリニック》は、いわゆる従来の医療施設のイメージとは全く異なる医療施設である。それを実現したのは、先ず「デザイン」を根幹に据えたこと。登壇した関係者の主な発言を備忘録として以下にまとめておく。

登壇者(敬称略):徳永義光(医師、医療法人杏月会代表、)、佐藤卓(佐藤卓デザイン事務所代表取締役)、手塚貴晴、由比(手塚建築研究所代表)、黒塚直子(画家)

空の森クリニック」は、生殖医療ーー不妊に悩んでいる人のための医療施設。施主である徳永医師が、同県糸満市で2005年に開業した ALBA OKINAWA CLINIC が前身である。ピーク時で初診待ちだけで半年、待合室に入りきれない来院者が駐車場の車の中で待つなどキャパシティの限界状態となっていた頃、建て替えを考えた徳永医師が、地元のグラフィックデザイナーの推薦を受けて、それまで面識がなかった佐藤卓氏に相談した、という経緯が最大の特筆点。ちなみこの時点では、糸満から東に6kmほど離れた島尻郡八重瀬町に移転することになる敷地も未だ見つけてはいなかった。
シンポジウムの冒頭、佐藤氏に紹介されて登壇した徳永医師が、現在の医療の問題点、生殖医療について解説。
徳永医師は来院者を「ゲスト」と呼ぶ。何故ならば不妊は病気ではないからだ。その約半数近くが原因不明(男性不妊40%を除く)であり、負の要因としてストレスが考えられるため、心身ともにリラックスした状態でゲストに滞在してもらい、プライバシーも護りながら高度の医療も提供したいーーこの明快な理念をカタチにすべく、佐藤氏がオーガナイザーとなって2012年1月に「空の森プロジェクト」構想がスタートする。

シンポジウム会場には「空の森クリニック」のS=1/200全景模型なども披露された(上と左の画は敷地西側からの俯瞰)
模型中央の白い長方形が手術室で、その周りを平屋のゲストルーム、診療室、ナースステーション、スタッフエリア、ライブラリー、カフェなどが囲む。建物の北西側は駐車場(沖縄は車社会)。 東から南にかけては緑(森)が広がっている。

ゲストの気持ちを少しでも癒すようなリゾートのような空間、というイメージは、かなり最初の段階からあった。佐藤氏から設計を依頼された両手塚氏らは、最高級のホスピタリティを体験してみようと、インドネシア バリ島にある《アマンダリAmandari》に(「自費で」)宿泊している。"心の平安"を意味する最高級リゾートでの実体験は、PJに少なからず影響を与えた。


何の予備知識なく、全景模型と竣工写真(下の画)を見せられたら、10名中10人が「高級リゾート」と思うだろう。だが、手塚が建設予定地を視察した際は「渺々とした荒野」だったという。
「クリニックというよりも、沖縄のこの地にイチから豊かな森をつくる」+「空」という、佐藤氏が提案したコンセプトは、徳永氏が抱いていたビジョンと驚くほど合致していた。「空」は自由で無限に広がるsky(そら)であり、モノや人の器にもなるempty(くう)の意も含む。「ファンタジックな設定に最初は戸惑った」という手塚氏だったが、沖縄という土地が背負ってきた歴史と《Amandari》での体験も踏まえたうえで、木造の平屋にこだわった、半屋外が殆どという、医療施設としては希有な空間を設計した。
沖縄では現在、コンクリート造が多い。実は近年まで木造建築の伝統が脈々とあったが、70年前の戦争により、断絶してしまった。「空の森PJ」は、この地から木造文化を復活させる第一歩であり、それを支える木を植え、これから長い年月をかけて森を育くんでいく。
ゲストルームの部分模型。ぐぐっと下げ、奥行きも2m以上ある軒は南国の強い日差しと大粒の雨を遮ってくれる。雨音は耳に心地良いほどだという。手塚由比氏は「快適な空間とは何かを考えた時、自然から感じる快適さには適わないと《Amandari》で思った」という。また神戸での《チャイルド・ケモ・ハウス》や、初期の《副島病院》での経験から、手塚夫妻は「理想とする病院は家ではないか」と常々考えていた。《空の森クリニック》では、高度な医療設備をコアに集中させ、その周辺に「建築をつかってどれだけ"外"をつくれるか」を突き詰めて、建物を配置した。夫妻は「アマンリゾートを上回るものが出来た」と胸を張る。
空の森クリニック」全景模型、南側からの俯瞰
Google mapで表示される画と同じ方位)

内でも外でもない中間領域=空間をグラデーション化させた半屋外のデザインは、広々とした待ち合い室などでも踏襲されている(レイアウトおよび内外観の写真:公式サイト〜施設のご案内。開院から半年、その効果のほどを、徳永医師は次のように語った。「1日の来院者数平均は135人。お待たせしないようにはしているが、待ち時間が苦にならなくなったようだ。診察時間がきて、ゲストを呼び出してもなかなか現われないこともある。訊けば、待合室で寝ちゃってたという人も」。そして「雨の日が良い、と皆さん仰います」とのこと(雨の日の病院はフツウ空いていることを思えば驚異的)。なにより、妊娠したゲストの人数が倍に増えた。
驚嘆することばかりの「空の森クリニック」でのデザイン事例。上の画は、同クリニックの来院者が最初に目にするサインである(夜間)。大きな自然石の上に文字はなく、ただ「輪」だけがある(参考:公式サイト〜空の森クリニックとは/佐藤卓氏によるコンセプトおよびロゴデザイン解説)
「空の森」のコンセプトを立ち上げた当初から、佐藤氏の頭の中には(下の画のような)大きな樹が空に浮かんでいるようなイメージがあった。それを具現化したのが、画家の黒塚直子氏である。銀座にあるギャラリー「巷房」で、佐藤氏は何度か個展を見ており、藍色を基調とした黒塚ワールドと、今回の「空の森」のイメージがピタリと嵌った。
後にクリニック全体のアートワークを担当することになる黒塚氏は、佐藤氏から打診があった時、「私の作品で本当にいいのかしら」と思ったという。他所の医院に飾る絵画の制作を過去に引き受けたことがあり、その際に色は藍ではなく例えばピンク、ファンシーで明るい作風を望まれたことがあるからだ。だが、佐藤氏は「黒塚さんしかいない」と確信しており、徳永医師も「子どもが重要なワードとなる生殖医療の場ではあるが、あえて大人っぽいイメージにしたい」という想いがあった。こうして、黒塚氏いわく「レイチェル・カーソンの『The Sense of Wonder』をイメージした」というキービジュアルが出来上がった。
メインビジュアルのほか、黒塚氏が描いた絵は、いかにも"受付然"となるのを回避した開放的なエントランス、カーテンではなく簾を下げた診療室、ゲストルーム、ライブラリーなど院内あちらこちらに飾られている。さらにはスタッフの名刺、レターセット、うちわスタッフに1冊ずつ配布されるコンセプトブックでも展開。それまで専ら個展のために制作していた黒塚氏にとって、佐藤卓デザイン事務所とのタッグは新鮮だったようで、「次にどう仕上がってくるか、毎回楽しみだった」とのこと。当初はサイズ感が大きすぎるのではないかと難色を示していた、屋外に置くやきものオブジェも結局は現地の窯で焼き、まるでハナから廃墟の中に埋もれていたかのように、ランドスケープデザイナーが手掛けた"森"の中に点在している。これらのアートワークから、絵本『空の森』も誕生した(リトルモア、2015)
先ほど、他の医療施設では「明るく元気な色調」が好まれると記したが、生殖医療の現場で配慮すべきことのひとつに、全員が子どもを授かる訳ではない、というシビアな現実がある。入院中に授からなかった6-7割の人々の気持ちにどう寄り添うか、徳永医師が常に心を砕いてきたことだ。医療施設に限らず、ハコモノでは往々にして後付けになりがちなデザインやアートを、クリニック建設の最初から根幹に据えた理由がここにある。作曲者は今回登壇しなかったが、村上ゆき氏によるオリジナル楽曲も制作されている。BGMが静かに流れるクリニックで働くスタッフは、白衣ではなく沖縄の藍で染められ、職種ごとに機能的にデザインされたなオリジナル・ユニフォームを纏う。カフェでは、森を散策した時に足元から聴こえてくるサクサクとした葉音をイメージした焼き菓子も用意しているという。
これら画期的デザインを推進した佐藤氏は「デザインとは人のために何かを考えること」と言い表し、そのひとつひとつが結集して「ありそうでなかったものができた。それは、デザイナーが日々つくろうとしているもの」と今回のPJを振り返る。手塚氏も「関係者間で、難しい言葉をひとつも使わずに済んだのが印象深い。自分が欲しいものは何かを考え、シンプルに突き詰めて、僕らは当たり前のことをしただけ」と佐藤氏に同意する。そして「よく使う」という"I believe Architecture."という言葉を例にーー「建築家がちょっと頑張れば、仮に病院でも大きく変わる」可能性があることを、今回の事例で示してみせた。
元は"渺々と"していた土地に、いのちと正面から向き合うクリニックを中心として、全く新しい"森"が生まれつつある。
空の森クリニック」では"当たり前"のことが、およそ大多数のニッポンの医療現場から欠落しているのが厳しい現実(だが、手塚氏いわく「デザイナーや建築家の主張が入り過ぎるとうまくいかない」とのこと)。そんな発言の数々を聞きながら、半年前に見た企画展「活動のデザイン」を思い出した。
数々のデザイン提案にGOサインを出した徳永氏は、シンポジウムをこう締めくくった。「その都度で増えていく、新たな森をまもるために、僕らは日々働いているのかもしれない。医療とは腕を試すものではない。人のために成すもの。その意味では、医療もデザインである」。

医療法人 杏月会「空の森クリニック」公式サイト
http://soranomori.info/




+飲食のメモ。
六本木ヒルズで18日から始まった「かき氷コレクション」へ。ヒルサイド2階の[ヒルズカフェ/スペース]に、昨年も出店した2店舗+3店舗=名だたる5店舗が期間限定で営業中。
営業は11時から21時まで(20時半L.O.)。売り切れたメニューもあるが、会期2日めの土曜日でも18時半過ぎと遅かったせいか、並ぶことなくすんなり入れた。
入口で食券を買い、中のカウンターで注文するシステム。
本店舗では天然氷で提供している店もあるが、イベントでは全て純氷と横並び。会期途中で入れ替えもあり、栃木県宇都宮市から初出店の[Patisserie Merci(パティスリーメルシー)]も8月2日までの営業。
卵にこだわった店らしいので、幸いにして未だあった「ケーキ屋さんのミルクセーキかき氷」をいただく(消費税込800円)。 氷はけっこうなボリューム、2人でシェアしてちょうどいいくらい。
おいしゅうございました。ごちそうさまでした。

ダイハツ ウェイク presents「かき氷コレクション」
www.tv-asahi.co.jp/summerstation/area/shave-ice/

「TIMESCAPE」展@プリズミックギャラリー

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南青山のプリズミックギャラリーで開催中の「TIMESCAPE」展へ。

出展者:伊藤友紀(伊藤友紀建築研究所 代表)、植村遥Uemura Architecture Lab主宰)、高栄智史(建築家・写真家/公式サイト、岩田知洋・山上弘岩田知洋+山上弘建築設計事務所共同主宰)
本展のきっかけは、昨年9月に大阪・南港ATC[ODPギャラリー]で開催された、35歳以下の新人建築家7組による企画展「Under 35 Architects exhibition 2014(註.同展に参加した他の3組3名の建築家も昨年12月にプリズミックギャラリーで展覧会を行なっているが、どちらも大阪会場との関係性はナイ)
本展のタイトル「TIMESCAPE」は辞書を引いても出ていない。TIME(時間)の後ろに「-景」を意味するCAPEを付けた造語である。4組5人の建築家が、それぞれ独自の作品を展開しているため、互いの共通点として「時間」をテーマに掲げている。

出展作品は主に建築模型。透明な原っぱの上に、それらが浮かんでいるかのよう。
この"草原"の正体は、長さ80cm、2辺の長さが0.5cm、長辺0.7cmの二等辺三角形のアクリル溶接棒を立てこんだもの。模型の台座の高さはそのほんの少し上に据え、重量のある1作品を除いて約20mm角の柱1本で支えられている。静止画だと判らないが、会場の空調設備からの風(冷房)で、二等辺三角形のアクリル棒が小さくゆらゆらと揺れる。その数、1,500本。
会場構成の意図としては、全体で"時間軸"を表現している。時間(TIME)とは、その瞬間・一瞬が連続していったもの。点が線となり、点の集合体が面にもなって、未来に繋がってゆく。仮に出展者4組5名を点とするなら、それぞれに繋がる線があり、それぞれのクライアントとの接点、それぞれに共有してきた時間がある。また、来場者の視点と、観賞によって生まれる何らかの点や線がある。それらが大きな面となって広がり、新たな多様性に繋がっていけば、という期待も込められている。

追記:高栄智史「TIMESCAPE 展 at PRISMIC GARELLY」動画

点〜線〜面によって会場に浮かびあがる「景」は、観る角度や時間帯、天気によっても変わる。来場者それぞれの時、それぞれの胸の内に浮かんだ「景」を持ち帰ってもらえれば、とのこと。

出展された模型は、スタディ、実現しなかったプロジェクト、進行中の物件とさまざま。
高栄智史「about "study"」
木、コンクリート、スチールによる家型を野外に曝し、素材の経年変化を観察中の模型(展示品で約半年ほど経過)
写真家でもある高栄氏は映像作品を含む5作品を出展。
岩田知洋+山上弘建築設計事務所「600平米の家」
600平米の敷地に約160平米の家を建てる計画。2棟の屋根が接する中心部と左右に余白(void)を設けている。2016年春竣工予定。
高栄智史「雨漏りする家」
足下には霧吹きが置かれており、会場で確認したところ「模型に吹きかけてくれて構いません」とのこと。
伊藤友紀「赤いレンガの家」
RC構造に外装が赤煉瓦という家に長年住み慣れた一家が、都心から離れた地に、馴染みの赤煉瓦と共に移り、新たなRC造+赤煉瓦の内外装で建て替える計画の模型(進行中)。同計画の模型は会場内にもう1点あり。
映像作品:伊藤友紀「ひとりのおばあちゃんの行為によって生成される建築」
高栄智史「多視的建築論」「dead tree house」「primitive(glass)hut」
右:岩田知洋+山上弘建築設計事務所「湖の休憩所」
左奥:伊藤友紀「赤いレンガの家」
植村遥「Alzheimer Hospital」
コンペで勝利し、南米スリナム共和国の首都に建設される予定だった病院の設計案。
高栄智史「dead tree house」
高栄智史「primitive(glass)hut」
今春、京橋の[AGC studio]での企画展「U-35 Young Architect Japan.多様な光あるガラス建築展」において披露された、熱線吸収板ガラスによる"モバイル茶室"の原案模型。
会場で静かにゆらめくアクリルの"草原"は、当初は1mの既製品で構成されたが、自重によってたわんでしまうため、全ての棒を20cm短くし、かつアクリルブロックの根本付近の1辺に透明テープを貼って補強するなどして調整した(繰り返すが、1,500本全てを再調整している。会場を俯瞰しただけではわからぬ陰の苦労)。見学時は、永山祐子氏永山祐子建築設計代表)を招いてのギャラリートーク開催日だったため、各氏によるプレゼンのほか、零れ話も含めて聞け、収穫。
「TIMESCAPE」展は7月25日まで。開廊は10-18時(入場17:30まで)、入場無料。

プリズミックギャラリー
www.prismic.co.jp/gallery/




+飲食のメモ。
最寄駅の銀座線外苑前駅と会場との中間辺りにあるトラットリア「フィレンツェ・サンタマリア 南青山」にてディナー。
コスパが高く、14:30までに入店すればありつけるランチ(フォカッチャとスープが付いて、現在は1,150円から)に救われること数度。今宵念願成就。ラストオーダーは22時、全面禁煙。
ほかにも生ハム付きの前菜やらグラタンなどもいただく。撮る前に平らげたこともあり、うち3皿の画にて。
和洋中の飲食店を多数展開する際コーポレーションの系列店、などと色眼鏡でみることなかれ。
ディナーも美味しゅうございました。ごちそうさまでした。

TRATTORIA Firenze SANTAMARIA(トラットリア フィレンツェ・サンタマリア 南青山)
http://kiwa-group.co.jp/restaurant/106/

内田繁デザイン展2015「茶の湯の風景」@桑沢デザイン研究所

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渋谷の桑沢デザイン研究所で17日から開催されている、内田繁デザイン展2015「茶の湯の風景」を見学。

渋谷の喧噪を抜けて、カラフルなオブジェ《Tree》が配された会場に一歩、足を踏み入れると、静寂なる森の中に紛れ込んだような感覚に陥り、夏の暑さも忘れ、一気に作品世界に浸れる。

会場には、1993年に発表された3つの茶室《受庵・想庵・行庵》を中心として、内田繁氏内田デザイン研究所がデザインし、企画展などで発表してきたシェルフやテーブルなども展示されている。
上の画の奥:左から、《Beging the Beguine VI》《Begin the Beguine V》、柱を挟んで《Shelf02》《Shelf01》
手前:白い樹のような作品《Clound》の周りに、羊のようなスツール《Moo》の群れ。
3つの茶室、手前右から奥に向かって《行庵》《受庵》《想庵》。
茶室の構造材ごしの風景、光を透過して茶室の中と外それぞれに落ちる影も美しい。
本展では、靴を脱げば、各茶室内に入り、しつらえを真近で観賞することができる。《行庵》では風炉釜を除いて内田氏以外の作品。掛物は日比野克彦氏画による《満月》。
《行庵》の内部、にじり口を通して、《Clound》と《Moo》、さらに《Beging the Beguine》VとVIの眺め。
《受庵》の掛物は浅葉克彦氏による《黒白》、風炉と釜は内田氏の作品、一部既製品。
ちなみに浅葉氏は桑沢デザイン研究所の第11代めの所長を2011年から務め、前任が内田氏である。
《行庵》でも同様だったが、細かい格子の壁越しに、内と外の風景が入り交じる。
内田氏の著作『普通のデザイン』(2007,工作舎)の第2章、茶室について書かれた文章(P/042-044)のなかに「空間を壁で囲うのは当然だと思えるかもしれませんが、古来、日本の建築には壁は存在しませんでした。」「日本の空間はがらんどう」という指摘があり、「自然の微細な波動、風、音、光などを感じ」られるよう、「茶室がそのまま自然の一部であることを示す」という作品かと思われる。
"壁"の外と内側が和紙で覆われた《想庵》。
ヴェネチアン・グラスの茶碗、金子透氏によるガラスの茶器など、和と洋によるこのような自由な組み合わせもアリなのだと、見るものに思わせるしつらえ。

会場には、テーブルを使って手前をする立礼《地蔵院卓》も。釜と茶器も内田作品。
屏風は浅葉克己画《雨にむかいて月を恋ひ…》。この屏風と内田氏の立礼卓の組み合わせは、昨秋に銀座で開催されたアートイベント「THE MIRROR」にも出展された。
長友啓典氏による屏風《顔》と、内田氏がデザインしたテーブル《East of the Sun》を挟んで、チェア2脚《岡崎の椅子》、タマゴ型のランプ《l''uovo(ウォーボ)》。
屏風《顔》の一部のアップ(自分の顔にソックリなのがあった...)
《Cloud》越しに、水のインスタレーション《Dancing Water》。内田氏がインテリアデザインと外観監修なども手掛けた《THE GATE HOTEL 雷門》や《銀座グランドホテル》のホールやロビーなどで、その場に応じて仕様にデザインされた作品を見ることができる。
内田繁デザイン展2015「茶の湯の風景」は、桑沢デザイン研究所 1階P1ホールにて、7月28日まで。開場は11-19時(日曜は17時、最終日は16時まで)、入場無料。

内田デザイン研究所
http://www.uchida-design.jp/
同事務所 公式facebook




+飲食メモ。
桑沢デザイン研究所の裏手にあるカフェ「Au Temps Jadis / CREPERIE(オ・タン・ジャディス/クレープリー)」にて休憩。1985年開店、今年で30周年を迎える。
石に貼られたメニュー表と、赤レンガの外観が目印。ジャディスといえば、仏ブルターニュ地方の伝統的なガレットとクレープが有名。
定番「バターと塩のクレープ」(消費税別¥650)と、オリジナルブレンド紅茶(同¥700)。小皿の上のミニドーナッツはサービス♪
ぜんぶおいしい。特にそば粉のクレープは、もしも私の両頬に"袋"があったなら、ずっと蓄えておきたい感じ。
紅茶はアールグレイがブレンドされた好みの味。ポッドでサーブされ、ゆうに3杯分。
店舗は地下1階にあるが、ドライエリアから光が差し込むのでとても明るい。テラス席もあり。
とっても美味しゅうございました。ごちそうさまでした。

Au Temps Jadis / CREPERIE(オ・タン・ジャディス/クレープリー)
www.many.co.jp/jadis/

「CRAZY KIOSK」@ (PLACE) by method 限定オープン 7/24まで

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渋谷区東1丁目の (PLACE) by methodで7月10日から開催中の「CRAZY KIOSK」へ。
山田遊氏が代表を務めるmethod.incのオフィスを壁1枚挟んだギャラリースペースに出現した「CRAZY KIOSK」は、同社でバイヤーを務めるサトウユカ氏がキュレーションを担当。財布の紐をユルめてしまう品々がギッシリと詰まっている。

「CRAZY KIOSK」に置かれた商品は、売約済みなどごく一部を除いて購入可。ニュースリリース.PDFおよびDMに記載されたテキストを以下に引用する。
衝動買いのお店「CRAZY KIOSK|クレイジー キオスク」。
methodのバイヤーであるサトウユカが、過去、衝動買いした品々を
駅にあるキオスクという、今すぐ買える店舗の形式で販売します。
その場で、そのモノを、ただただ欲しいという衝動のまま、今すぐ買って帰る。
買うことを躊躇ったり、悩んだり、家に帰って頭を冷やして考えたりなんてしない。
それこそが衝動買い。
今すぐ欲しいものを、自分自身の為に、もしくは誰かの為に。
今すぐに持ち帰りましょう。
ビバ・衝動買い。


元祖大元のキヨスク(KIOSK)は日本の旧国鉄時代に誕生し、独自の進化を遂げた販売形態。小さなスペースに数百種類の商品を揃えているという点では、此処「CRAZY KIOSK」も同様。異なるのは取り扱っている、ビバ♪な商品。約900種類、仕入れだけで9か月かかったという商品の数々を前に「こんなんあるのか?!」と何度も驚き、ニンマリして、財布の紐が緩むこと、うけあい。
ピストルとライフルを模した水鉄砲。ライフルは「機動戦士ガンダム」のオフィシャルグッズで、ガンダムのビームライフルとザクの機関銃仕様。束になって木桶に盛られているのはユーロ紙幣を模したペーパーナプキン。
いかにもアメリカンな極彩色のキャンディーや、舐め終わるのに1時間近くかかるというチュッパチャップス。その間に、島根県のご当地菓子パン・薔薇パンこと「出雲名物ROSE木村家オリジナル」。どれもこれもキラキラと異彩を放つ。
伊豆半島で見られる独特な地形や地質をカタチにした「ジオ菓子」。縄状溶岩クッキー、スコリア焼チョコなど、絶妙なネーミングに負けず劣らず味にもこだわった逸品とのこと。全9種が箱に入ったセット売りもバラ売り品共に売り切れ目前
時々ムショーに食べたくなるけど、1本は多いんだよなぁという時はこちら、文明堂「おやつカステラ」は2切れの食べきりサイズ。什器の左、座布団に鎮座した招き猫ならぬ"招き犬"はサトウ店長の私物(日光江戸村のゆるキャラ「ニャンまげ」)につき非売品。
蓄光サインペン、3色を合わせて好みの色がつくれる「マーカーメーカー」などの文房具。米国Safari社のフィギュアは日本公式サイトでは扱っていないもの(奥:シーラカンス、クラーケン、イエティ、毛が生えたマス「デザイナーチューブ 未確認生物」、手前:心臓、胃袋、腸が詰まった「チューブ臓器」など)

「CRAZY KIOSK」にはそんな「今、此処でしか手に入らない」ものが多い。また、初日から置いて未だ在庫がある商品もあれば、既に売切御免となり(初日に3,000点だか売れたそうだ)、新たに仕入れられたものも。会期中、何度も足を運んでも楽しめる商品構成になっている。
ホワイトソーセージ、ゴルゴンゾーラチーズ、サラミを模した付箋「SLICED-eat スティッキーノート」も、国内生産が終わっているので僅少品。オープン時はバウンズの付箋もあったらしい。
ビス頭やナットの角を傷つけることなく使える「強化プラスチック工具」。上の画・左下のオレンジ色のビニール傘は、アニメ制作会社ガイナックス公認のビニ傘で、広げると"ATフィールド"が展開される。柄の部分にロゴ文字が入っただけのシンプル仕様。
Miele社のロゴが入ったおもちゃの洗濯機。流石に汚れを落とすまではいかないが、ちゃんとドラムが回ってすすぎと脱水の音までするらしい。その右側は、パーティに持っていけばウケること間違いなしの「ハリケーン・ポップコーン」。袋の表の見た目はハワイアンだが、裏を返したら、海苔やらあられやら味付けは和風テイスト。
methodがプロデュースした花火「fireworks」は、1本からパッケージされたものもあり、セットではなくバラ売りを前提にデザインされている。1本ごとにスタッフが吟味して、家族向け、恋人同士、シチュエーションは浜辺で、などの注釈が名刺サイズのカードに記されている。
ルーカスフィルム公認「X-WING KNIFE BLOCK」は米国内での受注生産品で、本展のためにオーダーされたもの。「スター・ウォーズ学習帳」は隅々まで凝っていて笑わせてくれる。ダースベイダーとルークの戦闘シーンが表1の「うちあわせ」はライトセーバーでの"うちあい"を引っ掛けたもの。そうと聞いたら、「ほんやく」や「ろうどう」とどれにしようか迷ってないでもう買うしかない。
伊豆ジオパークの「伊豆半島ジオMAP」まで付けていただいて、前述食品3点とあわせて消費税込み¥1,026とはなんとおトク! 「CRAZY KIOSK」のロゴがプリントされたシャカシャカ袋に入れてくれる。半透明なのがナイス。
仕入れまでのストーリーや、個性的な商品の裏側も知った上で買うと、どれもこれも、そんじょそこらの"衝動買い"ではナイ。思い入れがいつもと違う。他人に言いたくなる。 
什器を含めて「CRAZY KIOSK」の構成材はグレーの厚紙で、ストライプもその上から黄色い紙を貼ったもの。デザインと製作は DAYS.の西尾健史氏。ロゴデザインは倉充展と洋美によるクリエイティブグループ Bob Foundation(ボブファンデーション)が担当。
会場オープンの4日ほど前に搬入された厚紙をカッターで切り、ボンドで貼って、西尾氏とアシスタントの2人で組み立てたそうだ。商品の重さでたわみそうな要所にはリブが入り、仮設期間中は保つ強度で設計されている。
収納やカウンターが設けられていたり、S字フックでトートバック(Bob Foundationがデザインした"Buyer"の文字入り)などの軽いモノを掛けられたり、内部空間も機能的。
 てんjy 上部にはフロアの空調の噴き出し口が位置することもあり大きく空いているが、細い角材を四角にまわして上から3方を吊っている。
上の画・左側、「CRAZY KIOSK」の手前に置かれた、赤白の縦ストライプのギフトボックスは、大人が入れるサイズ。価格は3,000円台で、早くも初日に売約済み。
ちなみに「CRAZY KIOSK」では最も高いもので2万円ほど。衝動買いが止まらなくなって山ほど買っても、それほどでもない、という商品構成になっている。CRAZYだが、そこはあくまでKIOSKなんである。
事前注文して販売した、カラフルなミニ祝い花がズラリと並んで来場者を迎える。
「CRAZY KIOSK」は7月24日で終了。18時で閉場のところ、最終日のみ21時までオープンする。

(PLACE) by method
http://wearemethod.com/contact




+飲食のメモ。
昨秋に開催されたドリルデザインの企画展を見にきた後に立ち寄った、会場近くのカフェ「COFFEE HOUSE NISHIYA」へ。

戦利品を脇に置いて、いただいたアイスカフェラテ(消費税込み500円)も美味しゅうございました。ごちそうさまでした。

「COFFEE HOUSE NISHIYA」
http://coffeehousenishiya.com/

藤本壮介×戸恒浩人「雲の椅子の紙の森」@オカムラデザインスペースR

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紀尾井町のオカムラデザインスペースR(以下:ODS-R)にて、この時期恒例となっている企画展「雲の椅子の紙の森」を見る。藤本壮介氏と照明デザイナーの戸恒浩人氏によるインスタレーションが31日まで開催されている。
本展は、ODS-R企画実行委員会が毎年指名する建築家と、建築領域以外の表現者との恊働によって、新しく独創的な空間・風景の創出"を目指すもの。
会場には、座と背が和紙でできた白い椅子20脚が配置され、会場全体あるいは一部に、白い光が柔らかく、時に強く照射される。光と影、濃と淡が繰り返される会場は、色がついていないモノトーンの世界ながら、実に多様な表情をみせ、建築のような、家具のような、自然の一部のような、まっこと藤本氏ならではの空間となっている。

18-20時に開催されたシンポジウムでの関係者の発言によると、プランは変更されること数度。ボツ案は今とは似ても似つかない。オカムラの"顔"ともいえる椅子を和紙でつくり、森のような雲のような空間を出現させるべく、戸恒氏率いるシリウスライティングオフィスに声がかかったのは今年5月。2008年竣工の《House N》以来、医療施設、ミラノサローネ会場構成、大学図書館、国際コンペなど数々の現場を藤本壮介建築設計事務所と恊働してきた戸恒氏いわく、「藤本作品では普通の照明計画が成り立たず、実に照明デザイナー泣かせ」だそうだが、両氏の間には阿吽の呼吸があるようで、今回の展示プランを目にした時、即座に100ほどのイメージが浮かんだという。

照明パターンは大きく4つ設定されている。下の画は戸恒事務所が用意した会場配布物。
どこから眺めてもいいのだが、以下4枚は会場向かいの"特等席"からの眺め。
床に大きい影の濃淡が広がり、空間の奥行きを感じさせるための光で構成した「重ね」。
雲状の椅子に影が落ちるなど、元とは異なるカタチとなって、見る者に異なる印象を与える「切取り」。
床の微妙な影の変化にも要注目。
和紙の特徴を生かした「透け」。逆光によって和紙の下のスチールの背がほのかに浮かび上がる。
会場全体が最も明るくなる「繋がり」。複数の面が連続して大きな塊に。複数の3次元の群れをフラットに見せるライティング。

4つの調光パターンはランダムに切り替わるようプログラミングされ、照明ごとにアドレスがふられているので、微妙に調光を変えることができる(協力:コイズミ照明、DALI:digital Addressable Lighting Interface )。飛行中の飛行機の窓から眺めた雲海と同様に、見る時間帯や見る角度によって、同じ風景は二度と見られない。
出入口側のガラス面は敢えて塞がず、外光が入ってくる右斜めの角度を意識したライティング。それらの効果を「時々、ふわあっと薄明かりが場内に流れ込んで、それがまた美しい」と藤本氏。自然光とLEDの人工灯とが混じり合うさまを、戸恒氏も「和紙だからこそ生まれた柔らかい光に満ちていて、時に霧が立ちこめたかのよう」と印象を語った。
適度な強度をもたせたうえで、"透け感"にこだわって選んだ和紙による、フリーハンドでラインを描いたような椅子の型は、実は1つしかない。傾きを変え、5パターンをつくった(会場で教わるまで、椅子の数だけ型があるのだとばかり思っていた)。そして藤本事務所のスタッフがカッターで切り抜いたと聞き、さらに驚く。
椅子は全て座ることが出来る。紙だけで作ることも考えたそうだが、さすがにムリだったので、脚と座と背はスチールで造作。
場内に自由に入れることも本展の特徴(梅雨どきにスタートしたというのに"土禁"ではナイ。スタッフが毎朝掃除して、白さを保っている)。「モノ(椅子)が主役になってしまうような、ただ外から眺めるだけの展示はイヤだった。人が内部に入り込み、インタラクティブな関係を結べる空間となってこそ、建築といえる」という藤本氏の意向による。
「立ったり座ったりするだけで、いろんな重なり具合、曲線の連なりも違ってくるので、会場ではあちこち歩き回り、椅子にも腰掛けて欲しい」と藤本氏。戸恒氏による絶妙な調光により、場内はいわば晴れたり曇ったり。ホテルニューオータニの館内に居ながら、藤本氏がよく使う表現ーー"まるで森を歩いているような感じ"になってくる。
1つの椅子に対し、天井からのスポット照明は3つ。「繋がり」の調光時にはかなりの明るさに。会場を見た照明メーカーの知り合いによれば、ここまで微妙にふんわりとした調光は極めてハイレベル。LEDによる表現の可能性が拡がった、との談。
「唐辛子を放り込んでアクセントをつける料理ではなく、ちゃんと昆布で出汁をとったぞというライティングにしたかった」とは、シンポジウムでの戸恒氏の例え。「光そのものには遠近感が無いので、本展示では奥行きを感じさせるための光をどうつくるかを意識した」。
床に落ちる影の有無、大きさと形状、濃淡が刻々と変化し、それに背景の椅子のグラデーションが加わり、見飽きない。これは是非、会場で堪能して欲しい。
設営しながら椅子の配置を藤本氏が変えるであろうことは戸恒氏も想定していたそうだが、18の予定が2つ加算されたり、調整はギリギリまでずれこんだ。キマったのは「オープンの1分前」(どんな仕事でも何故かギリギリまで持ち越し、どんなことがあっても不思議と1分前にピタッと終わる:戸恒氏談)
「インドアでのインスタレーションは実は苦手」と語った藤本氏だが、「元は1つの形という統一感がありながら、多様性のある展示になった。建築と家具の間のような、紙だけれども森、人工物だけれども自然ぽい、きわめて建築的な場を作ることができた」とのこと。戸恒氏も「光のグレースケールで、白から黒まで使い切った。要所でばちっと光をあてつつも、ある場面では柔らかい光もあるという会場に仕上がった」と今回の恊働を振り返る。

下の画:シンポジウムに出席した関係者。左から、戸恒氏、藤本氏、ODS-R企画実行委員長の川向正人氏。
雲の椅子の紙の森」は7月31日まで(19,20,26日休館)。開廊はオカムラガーデンコートショールームの営業時間と同じ10-18時だが、火曜と金曜に限り、1時間延長して18-19時に特別照明演出がある(ネタバレ:通常よりテンポが早くなる。特別照明演出を見る場合は、17時45分までに要入館。入場無料。

オカムラデザインスペースR「雲の椅子の紙の森」
www.okamura.co.jp/company/topics/exhibition/2015/r_13.php




+飲食のメモ。
ホテルニューオータニ内にも飲食店は多数あるが、本館を抜け、盛夏は夜でも蝉がなく桜並木を見上げながら、歩いて四ツ谷に出る。金曜の夜なので待たされようが、今夏初となる支那そば屋「こうや」で食べようと心に決めていた。ラストオーダーは22時半。
[こうや] といえば「皿ワンタン」。
ビールに合う「大蒜芽とレバーの炒め」。
そしてこの時期外せないのは冷やし中華。セロリ、白髪ネギ、蒸し鶏、ほぐしカニ、キクラゲ、千切りキュウリを掻き分け掻き分け、食べても食べてもなかなか減らない、ゴマだれの「上海涼麺」。
最髙でございます。今夏も美味しゅうございました。ごちそうさまでした。

「ディン・Q・レ展」と「MAMコレクション002展 ソ・ドホ+ポー・ポー」@森美術館

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六本木ヒルズ 森美術館で今日から始まった「ディン・Q・レ展 明日への記憶」をみる。
ディン・Q・レ(Dinh Q.Lê)氏は1968年ベトナム生まれ。10才の時にベトナム戦争時(1960-75)の戦火を逃れ、隣国タイを経由して難民として渡米し、美術を学ぶ。今日では世界で最も知られたベトナム人アーティストの一人として活動、日本では初となる個展開催であり、森美術館としても東南アジア出身のアーティストによる大規模展は初。

Q・レ氏が生み出す平面、立体、映像、写真の諸作品には、戦争の影が色濃く顕れる。
"紡がれた記憶"と題したコーナーでは先ず、Q.レ氏が国際的に注目されるきっかけとなった「フォト・ヴィービング」シリーズをみることができる。
Dinh Q.Lê《消えない記憶#10》2000-2001、《消えない記憶#14》2000-2001、共にCプリント,リネンテープ

1枚の平面の中に複数のモチーフが浮かび上がる。「フォト・ヴィービング」シリーズとは、会場の解説によると、Q.レ氏が幼い頃、ベトナム人の叔母から教わった、ゴザを編む手法に着想を得て、細かく裁断した数種類の写真プリントを縦横に組んで製作されたもの。
Dinh Q.Lê《無題(#14)》1998、《無題(二重の女)》2003

「巻物」シリーズ
報道史に名を残す写真を引き延ばして50mの印画紙に出力した作品。
左:ナパーム弾の爆撃から裸で逃げる姿を写し、1972年に「戦争の恐怖」として報道された1枚、右:1963年当時の政権への抗議行動として座しながら焼身自殺したベトナム人僧侶の姿をとらえた1枚

"ヘリコプターをめぐる物語"
農民たちへのインタビューを含む3面の映像と、実物大の手作りヘリがセットになった作品《農民とヘリコプター》。
2006年に制作され、2008年のシンガポール・ビエンナーレでも発表された。
ベトナム人にとってヘリコプターとは、戦争体験世代にとっては忌むべき兵器であり、戦後世代には、救命時や農作に利用できる機械の道具、という両極端な二面性をもつ。これに近いヘリコプターを自前でつくりあげたという若者のインタビューや、ヘリから銃撃を受けて九死に一生を得た元兵士、ハリウッド映画の名作とされる「地獄の黙示録」のシーンなどが、ひとつの映像作品の中に流れる。
米国の大学で学んでいた1989年、学生の間で人気を集めていた授業を受講した際、あまりに偏った内容に怒りを覚えて制作、校内に貼ったという《ベトナム戦争のポスター》のコラージュ作品が展示室の壁を覆い尽くす。
オーストラリアで起こったボートピープルの事件を題材とした作品。
2011年に発表された《抹消》の展示室の床には、戦火を逃れて貧相なボートで国を脱した、名も無い人々の顔、思い出の写真が敷き詰められている。来場者はそのうち1枚を選んで、場内指定の箱に入れておくと、後日インターネット上でその写真が公開される。地上から抹殺されようとした人間が、時を経て、第三者の行動によって再びよみがる。
Dinh Q.Lê《原付き修理します》2009 デジタルプリント
ベトナムのハノイ市内などでよくみられるというこの"サイン"は、「原付きバイクを修理します」という意味。この作品は、Q.レ氏から故国に送る"ラブレター"らしい。
ほか、新作の映像作品「人生とは演じること」など作品多数(出展作品:会場配布物.pdf



2003年4月の《六本木ヒルズ》開業と同時にオープンした森美術館(MAM)。森タワーの52,53階は今年4月25日にリニューアルし、森美術館が収集してきた作品が常設展示室で見られるようになった(参考:[FASHION HEADLINE] 3月24日記事、森美術館3月24日ニュースリリース.PDF
常設展示室は、受付から半時計まわりに進む企画展会場の次に位置する(反対側から回っても良い。入場は有料)。大きなガラス張りの1室がその部屋。本日より作品が入れ替わり、10月12日まで「MAMコレクション002:存在と空間 ソ・ドホ+ポー・ポー」を開催。
上の画:ソ・ドホ(Do Ho Suh)《因果関係》(2003)
ドホ氏は1962年生まれの現代アーティスト。国内ではほかに《十和田市美術館》に作品「Cause and Effect」が常設展示されている。

2012年に《広島現代美術館》にて「ス・ドホ in between」、2013年には《金沢21世紀美術館》で特別展「パーフェクト・ホーム」が開催されている。
広島現代美術館での展覧会の様子「DO HO SUH in between - Hiroshima MOCA」

金沢21世紀美術館での展覧会の様子

コレクション展の初日、たまたま来日して東京に居る予定があったソ・ドホ氏を招いて、19時からアーティストトークが開催された。兵士の首に下げられるドッグ・タグ(軍の個人認識票)による作品、《KALMA》シリーズ、金沢での展示、光州ビエンナーレ2013で展開された《In-between Hotel》、クリスチャン・ディオールとコラボしてアヴェニュー モンテーニュ30番地の館を斜幕で覆った《Seoul EXHIBITION》(参考:Dior TV インタビュー動画など、数々の「空間のオートクチュール」作品をスライドを交えてレクチャー。
森美術館のコレクション:ソ・ドホ《因果関係》の部分拡大。
作品にはもちろん触れられないが、臓器を内臓した精巧なる樹脂製人型を間近で見ることができる。
十和田美術館》では天井から吊られていた立体作品「Cause and Effect」を昨年2月に見上げた時、1個1個のパーツが"人型"だったとはウカツにも気付かなかった。

森美術館での「ディン・Q・レ展 明日への記憶」および「MAMコレクション002」は共に10月12日まで、会期中。開館10-22時(火曜は17時まで、但し9月22日のみ22時。入館は閉館30分前まで)

森美術館
www.mori.art.museum/




+飲食のメモ。
森タワー52階に、カジュアルなミュージアムカフェ[THE SUN]が新しくオープンし、なにやら「機動戦士ガンダム展 THE ORIGIN」とのコラボメニューもあるようだが(1,500円前後とけっこうお高い)、フードは21時、ドリンクのラストオーダーも21時半と、22時の閉館まで美術館を利用すると利用できないので注意。

しからばここは事前に、六本木ヒルズの夏季限定イベント「かき氷コレクション」へ、前回に続いて2度めのチャレンジ。土曜日の18時過ぎ、どれにしようか迷っている間に食券は買えたが、5店舗が並ぶ注文カウンター前には店によって長蛇の列ができていた(波はあるが、混み具合を確認したうえで食券を買うのがベター)

鎌倉から出店している「たい焼き なみへい」の「濃厚!マンゴーミルク」をいただく。消費税込み700円ナリ。
氷のかき方はたいへんよろしく、練乳が適度にかかったかき氷も美味しかった。ごちそうさまでした。

ダイハツ ウェイク presents「かき氷コレクション」
www.tv-asahi.co.jp/summerstation/area/shave-ice/

「和のあかり×百段階段」@目黒雅叙園

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目黒雅叙園で開催中のイベント「和のあかり×百段階段」を見に行く(その後、ランチを挟んで目黒区美術館の「村野藤吾の建築展」に移動する)

普段は撮影できないのだが、本イベント開催期間中に限り、自撮り棒や三脚使用NGなどのルールの範囲で撮影が可能(左の画は途中からの見下ろし)。主催者はSNS掲載や公式FBへの投稿も推奨しており、「いいね!」が10個以上付けば2回めの入場が無料に。

同園公式サイトの解説によれば、"百段階段"とは通称で、かつ実際の段数は99。かつての目黒雅叙園3号館として昭和10(1935)年に建てられ、現在では園内に現存する唯一の木造建築とのこと。平成21(2009)年には都の有形文化財に指定されている。
"百段階段"の右側に沿って、贅の限りを尽くした7つの宴会場(十畝の間、漁樵の間、草丘の間、静水の間、星光の間、清方の間、頂上の間)が上に向かって配置されており、それぞれ趣向を凝らした「和のあかり」が展示されている、というのが今回のイベント概要。

部屋ごとに「葛飾北斎と江戸職人のあかり」などのテーマがあるが、公式サイトの詳細ページや公式FBの方が画がキレイなので、当ブログでは省略し、フライヤーや会場解説板のテキストを元に、いかにも雅叙園な内部空間の一端をざっくりと記すに留める。

厚さ5cmのケヤキ板を踏みしめ踏みしめ、頂上を目指す。
1部屋め、「十畝の間(じっぽのま)」。 天井は23面の鏡板に、荒木十畝による四季の花鳥図が描かれている。部屋の名前は、部屋の主立った特徴、あるいは手掛けた画家の名に由来する。
EV前の壁の解説板に説明があったが、7部屋の「組子障子」の仕様はそれぞれ違うとのこと。
こんな感じで濃ゆい装飾がこれでもかと続く。向かいにあった和便所の天井もハンパではない。
昔の花嫁衣装は裾が長かったので、要を足す際に邪魔ならないよう、とても広いのだそう。
2部屋め、「漁樵の間」の出は入口脇の壁に取り付けられたナゾの物体。
装飾は全て純金箔、純金泥、純金砂子という「漁樵の間(ぎょしょうのま)」。格天井および欄間の装飾は立体的で、前者は菊池華秋原図による四季草花図、後者は尾竹竹坡(おたけちく)原図の五節句が彫られている。その下、天井高3.5mという部屋の奥に、日本を代表する「祭りのあかり」のひとつとして、流派をこえて4名のねぶた師がこの場で立ち上げたという青森ねぶたが鎮座。
2本たてられた床柱の材は共に檜で、中国の故事"漁樵問答"の一場面が彫られている。
百段階段から「漁樵の間」に続く廊下もあちらこちらできんきらきん。入り隅の仕上げも、名だたる寺社で見たことがないようなゴツゴツした装飾がまわっていた。
まだ30段めあたり、残り約70段、部屋は5つ。
江戸風鈴で飾られた「草丘の間(そうきゅうのま)」。「夏のあかり」と題して、ライトアップされたアートの竹林をバックに、おびただしい数の風鈴の音にシャッター音が混じる会場。
磯辺草丘による四季草花絵や松原図を観賞する、までは今回は至らない。
「草丘の間」を出た正面。段差を降りて、左側が百段階段。
各部屋の出入口上に取り付けられた照明器具。透かしの柄は数種類あった。そして百段階段の天井にも絵が。
窓の外では蝉が鳴いている。館内は冷房がきいており、来場者は一時の涼を求めて、という感じ。日曜の10-11時台でこんなに人が多いとは思わなかったが。
百段階段の途中、謎の開口部と段差。かつては出入りできたのだろうか。
4つめの部屋、「清水の間(せいすいのま)」。橋本清水が次の間の天井及び欄間を描いていることに由来する。
ほおづき、紅葉など1つ1つの下で光るLED「草木のあかり」。制作は造形作家の川村忠晴。
百段階段に並行する廊下の突き当たりが「星光の間(せいこうのま)」。板倉星光の四季草花図よりも、今回の主役は中里絵魯洲の作品が醸し出す「闇夜に浮かぶ月のあかり」。三代目市川猿之助丈によるスーパー歌舞伎の美術小道具などを担当している美術家(中里絵魯洲 公式サイト
小山大月画による風景画が描かれた1室に置かれたのが中里作品。
屏風の中央部分と、その手前の水晶玉に、月を模した光が浮かびあがり、共に満ち欠けを繰り返す。
階段途中からの見上げ。
美人画の大家・鏑木清方によってつくられた茶室風の部屋「清方の間」で6つめ。
アプローチ(廊下)の右側に続く障子のデザインに目を奪われる。
天井も大迫力なのだが、その下に並べられた美濃和紙アートの数々がまた凝っている。
展示テーマは「和紙のあかり」。上の画のこんもりした作品は桜の花びらがモチーフになっていた。
さて、ついに99段に到達。右側が文字通り「頂上の間」。
山口県柳井市の金魚ちょうちん、山口七夕ちょうちんによる「提灯のあかり」の演出。
実際の祭り会場では蝋燭が中に灯されるが、本展ではLEDを使用。
格天井に描かれた絵は松岡映丘門下による。
目黒雅叙園にはかつて1-7号館まであったようだ。各館執筆陣リストに記された画家の多さから、往時の隆盛が偲ばれる。3号館が建ったのは昭和10年、中国大陸でいわゆる盧溝橋事件が発生するのはこの2年後のことである。
和のあかり×百段階段」は8月9日まで、会期中無休。オープンは10-18時(金土曜のみ19時まで)。入場は有料(大人1,200円、学生600円)。要予約・有料の関連イベントも多数あり、食事ガイドツアーは会期終了後も通常開催されているようだ。

目黒雅叙園「和のあかり×百段階段」
www.megurogajoen.co.jp/event/wanoakari/




+飲食のメモ。
地元民に「この店のパフェはすごいですよ」と証拠の写メを見せてもらって胸トキメいた、[果実園 リーベル]でランチ。11:20に入店するもあいにく満席で、店内で数分待つ。あれよという間に後続客で待ち合いの椅子が埋まり、食べ終わって辞す頃には、店の外にも列が。聞いた通りの人気の高さ。
基本はフルーツパーラーなので、盛り盛りのパフェやズゴットケーキは美しくも超ド迫力。ランチとディナータイムにはグラタンやパスタ、肉・魚料理を提供し、"フルーツだけじゃなく、料理にも自信があります"と高らかにうたっている。
ローストビーフとサラダのまわりを旬の果物(パイン、ルビーグレープフルーツ、白桃、マンゴー、スイカ、葡萄、メロン)が囲む「フルーツランチ」、パンとドリンクがセットで消費税込み1,165円ナリ。他のランチセットのフルーツはスイカとメロンだったので、こちらの方が種類豊富。たまにはこういう高級フルーツを食べないとイカンよなぁ、夏場は特に、としみじみ実感。とっても美味しゅうございました。ごちそうさまでした。
7時30分から11時までやっているモーニングもお邪魔してみたい。

「村野藤吾の建築-模型が語る豊饒な世界」@目黒区美術館

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目黒区美術館で11日から始まった企画展「村野藤吾の建築-模型が語る豊饒な世界」へ。
13時半から、長谷川堯氏による特別講演会「村野藤吾が私たちに伝えるもの」も聴講。
1階と2階に分かれた本展会場には、村野藤吾(1891-1984)の作品模型80点と、当時の図面やドローイング、撮り下ろしの現況写真などの関連資料が展示されている(1階の模型5点のみ撮影可)。その趣旨は、展覧会タイトルが端的にあらわしている通りである。

本展の開催は、村野藤吾の遺族から京都工芸繊維大学に5万点もの設計原図が委託されたことに端を発する。教員らによる「村野藤吾の設計研究会」において研究が進み、1999年には「村野藤吾建築設計図展」が開催され、13回を重ねている。研究と並行して、同大学の学生らによって、実現しなかった作品を含めて原図を読み込み、今日まで続く模型制作が始まった。会場に並んでいるのは、2015年の建築学会業績賞を連名で受賞することになるこれらの活動(工繊大ニュースリリースの一端を担う、制作に1,000時間はかかっている(図録P.021:京都工業繊維大学美術工芸資料館教授 松隈洋氏の序文より)という模型の数々である。
上の画:「村野藤吾の建築-模型が語る豊饒な世界」展メインビジュアル(模型撮影:市川靖史/京都工業繊維大学大学院助教、デザイン:中野デザイン事務所は実際の光景ではなく、「東京都庁計画案」などアンビルトを含むさまざまな模型12点で構成されている。純白の模型だけで構成することで、数の多い2階の会場では特に、村野藤吾の作家性を浮かび上がらせ、氏が思い描いたかもしれない都市の景観をも出現させようとしている。2階は撮影NG。つい撮りたくなる模型だが、シャッター音が聞こえない静寂の中でじっくり集中して観賞し、情報を吸収した方がよい。

以下に掲載する写真は、1階エントランスホールでの展示(1階の模型5点に限り、撮影およびSNS掲載可)
図録の構成は「東大阪教会」(1928年竣工、現存せず)に始まり、以降は時系列に、1988年竣工の《三養荘新館》まで全80点が並ぶが、会場では、東京|美術館|教会・修道院|住宅|庁舎|百貨店|娯楽・集会施設|ホテル|オフィスビル|大学・研究所|交通などのカテゴリー別となっている。実現しなかった戦前のダンスホールや「志摩グランドホテル計画案」などのアンビルト9点の模型も含む。この1階のカテゴライズは[東京]に属する。
93才で亡くなる日まで仕事をしていたという村野藤吾。絶筆というドローイング(《三養荘新館》の配置検討図:2階の展示)は驚くほど力強く、思わず息を呑んだ。インタビューなどの映像資料はないが、添えられた解説文を参照しながら、さまざまなアングルから模型を眺めたり、詳細な手書き図面を読み込むにも相当の時間を要する。
「千代田生命本社ビル(現目黒区総合庁舎)」S=1:200模型(1966年竣工、現存)

千代田生命が経営破綻した後に目黒区が建物を取得し、2003年に改修されて《目黒区総合庁舎》として用途変更されて話題となった。だが、模型と同じ全景を現地で見ることは空撮でもしない限りは出来ない。例えば駒沢通り側では、高台の一角が区民公園に変わり、歩道橋からの眺めが緑で遮られる(下の画、目黒区美術館主催「建築ガイドツアー」参加時のもの)
竣工当時は周囲に高い建物もなく、景観も随分と変わっただろう。ゴールデンボードという強度のある真っ白な紙で細部まで詳細に制作された模型が並ぶ本展では、これらの"ノイズ"に影響されることなく純粋に、村野建築のディテールを好きな角度から堪能できる。ファサードの前に道路標識はなく、空調室外機が屋上に並んでいることもない。
敷地の高低差を考えて、長谷川氏いわく「沈むこむように」設計されていることがよくわかる。下の画・中央に斜めに開いた四角い穴の下に建っている茶室まではさすがに再現されていなかったが。
旧《千代田生命本社ビル》の"顔"ともいえるファサードのアルミダイカスト1つ1つまで極めて精巧な模型で、作り手の情熱が伝わってくるようで、見る側も気持ちがいい。
北側・商店街側のファサードも、ビルの間に埋もれることなく、全景が確認できる。
なお、同ビル内のディテールとして有名な「螺旋階段」の展開図や、館内で実際に使われていた時計も壁側に展示されているのでお見逃しなく。

「日本生命日比谷ビル(日生劇場)」S=1:200模型(1966竣工、現存)
下の画は現地にて今春、帝国ホテル側からの眺め。
現地では見上げになるので、屋上の塔屋などは確認できない。だが、模型では可能に。
 屋上はこんな造形になっていたのかと初めて知る。今春に《目黒区本庁舎》の屋上にあがった時に感じていたが、本展を見て改めて、村野建築の塔屋は凝っていて面白いと思った。

「日本興業銀行本店(現みずほ銀行本店)」S=1:200模型(1974年竣工、現存/但し、近く解体予定との噂)
大手町のビル群に囲まれ、あるいは敷地を接しているため、模型でしか目にすることができない西側側面。通りに面し、オフィス街を往く人々の目に触れる東側とはまるで違う"横顔"。

「森五商店東京支店(現近三ビルヂング)」S=1:100模型(1931年竣工、現存)
吹き抜け部分もきっちり作りこんだ模型に脱帽。

「読売会館・そごう東京店(現読売会館・ビックカメラ有楽町店)」S=1:200模型(1957年竣工、現存)

腰を屈めて模型の中を覗き込むと、数カ所に階段が確認できた。今日では量販店の物置スペースになっていたり、往時の姿を見ることは叶わないらしい。長谷川氏のスライドにあった美しい見下ろしの画を目に留めるのみ。
 何度も前を通っているのに、JR側のラインがこんなふうにカーブしていて、塔屋の大きさや角度についても模型で初めて知る(この楕円の凹形について、後に聴講した本展特別講演会にて、長谷川堯先生は「北側に建つ《東京国際フォーラム》の凸型カーブに連なっている」と指摘。また最上階に今もあるかは不明の茶室の写真も映写)
道を挟んで丸の内側にあった、丹下健三設計の旧《東京都庁舎》とは竣工年を同じくするが、あちらは西新宿に移転したので現存しない。1937年生まれの長谷川堯氏は、並んで建設中の当時、建築評論界から浴びせられた村野批判について、学生だった時分にはそれに同意する部分があったと苦く振り返りながら、現代建築への批判を込めて、今にして思うところを忌憚なく語った(講演は"予想"通り、予定時間を超過。数々のエピソードと貴重な作品写真も披露された。その中には現存しない《村野邸》の内外観も)
「現代はビルディングばかり建ってアーキテクチャーがない」「何らかのかたちで人が自分の身体を落とし込めない」「人が心を通わせられない」という長谷川堯氏の批判は、主催も会場も別の企画展関連トーク(「建築の皮膚感覚 ジオ・ポンティと村野藤吾の表現を探る」)の時にも繰り返されていた。いわゆる「新国立競技場問題」が起こってしまうような今だからこそ、建築家村野藤吾を冷静な目で捉え直すことで、建築と人との関係性を築き直せるチャンスを得られるのかもしれない。
会期中、ワークショップなど関連イベントは多数開催予定(壁の目地を利用した告知が、シンプルでわかりやすかった。同展で図録とフライヤーなどのデザインを担当した中野豪雄氏の仕事と思われる)

会場を辞した後、本展図録に最後まで目を通すと、巻末に収録された笠松一人氏(京都工繊大学大学院助教)の論考のなかに、村野藤吾は「建物を設計する際に油粘土で模型を造り、デザインを立体的に検討した。」という記述と、現《日生劇場》の粘土模型を側面からみた図版があった。関係者の想いが詰まった充実の図録を手にもう一度、会場および現存する作品の現地に行かねばと思う。

村野藤吾の建築-模型が語る豊饒な世界」は会期9月13日まで。開館は10-18時(入館は17時半まで)、月曜休館。有料。

目黒区美術館
http://mmat.jp/




+飲食のメモ。
入館料なしでも利用できるようになった1階ラウンジは、13-16時のみ喫茶営業がある(会計は美術館受付にて後払い)。長谷川堯先生の講演会前に、図録の序文(長谷川堯×松隈洋対談収録「村野藤吾が現代に遺したもの」)に目を通しながら、糖分とカフェインを摂取。
ホットコーヒーと、袋売り4-5種類から選べるクッキーを付けて350円。おいしい+そしてCP高し。
おいしゅうございました。ごちそうさまでした。

参考:この日のランチは、会場と目黒駅の間に位置する「果実園 リーベル」にて。

「木を知り、木を使い、木を活かす Vol.2」@ギャラリー5610

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Vol.1となる展示は、東大大学院木質材料学研究室単独で、2010年に同会場で開催されている。同研究室では、稲山正弘教授を中心に、木質材料、木質構造、環境問題の面で、持続可能な建築材としての木材の可能性と活用について、ざまざまな研究を重ねてきた。同様に、早大古谷研でも木材を軸とする3つの研究活動があり、建築家の山崎泰孝氏も名を連ねる共同研究「木質空間研究会」(2007年発足)を通じて、稲山研とは交流があった。本展では初めて合同で、これまでの研究成果を発表する。

約75平米の会場は床一面、木チップが敷かれている。入口のマットで靴裏の汚れを払い、場内に足を踏み入れると、足元でチップが軋む小さな音がして、同時に檜の芳香に包まれる。
カーペット敷きの会場を汚さないよう予めシートを敷き、壁との境も板きれで養生した上に、袋売りされている檜のチップを敷き詰めた(設営の様子:同「スタッフブログ」)。古谷氏が代表を務める STUDIO NASCAが設計し、木材を活かして建てられた美術館や図書館の内外観によるバナーが空間を要所で引き締め、同時に柔らかな雰囲気を加味する(会場デザインは古谷研、設営は2校恊働)
参考:前回の「木を知り、木を使い、木を活かす」展の様子と、木質材料学研究室公式サイト〜About Laboratoryと、ギャラリー5610の「スタッフブログ」に掲出されており、チップを敷く前の状態が判る。

木質材料学研究室では、所属学生全員への課題として、毎年テーマを変えて設計コンペが行なわれている。最優秀作品は1/1サイズで制作し、五月祭で披露される。今年のテーマは「合板を使った折板構造」で、2作品が選出された。
左側手前:「Edge」、右側奥「UROKO」
小さな合板ブロックを積み重ねた展示台は、大人が腰掛けても問題ない強度がある。
「Edge」の模型を真上から。偏心させて頂点をずらした折板屋根を、6本の"柱"が支え合う構造(模型の展示キャプションより)。五月祭同様、本展でも1/1サイズで屋外に展示されている。
「Edge」は可能な限り薄い合板で作られている。
折板屋根の下にはそれぞれ形状の異なる木製ベンチが3つ。
「UROKO」の展示はさらに外、通りに面した駐車場。本展へのアクセスはこれを目印にするとよい(下の画から数えて、1,2,7枚めの外観、3枚めの見上げは、会場ギャラリー5610撮影・提供)
"集まることでまったく違う形、機能を発揮する魚の鱗をイメージした"とのこと(出展模型のキャプションより)
晴天下の昼過ぎ、上の画のような光と影のパターンが床面に。
通りを背に、ドーム中央部分の見上げ。
「UROKO」の床板。こちらも何やらウロコ状。
道往く人々がドームの下で憩えるよう、テーブルとベンチが用意されている(隙間があるので雨はしのげません)
合板から切り出した小さな部材をL字に嵌合させ、アーチ状に組んでいる。
「Edge」と「UROKO」は共に、材料の加工から施工まで全て学生が行なっている(設営の様子:前出「ブログ」)
再び館内の会場に戻り、古谷研の展示を見学。
古谷研では大きく3つの研究グループがある。前述の「木質空間研究会」、「吉野材を活かした木質空間デザインの提案」、そして「森が学校計画産学共同研究会」である。
「森が学校計画産学共同研究会」では、4年前の震災で被災した、宮城県東松山市野蒜小学校ほか2校の移転計画と、C.W.ニコル・アファンの森財団が提唱する「森の学校」構想に基づき、建設予定地の裏にある山に、建築的アプローチから「復興の森」を整備するプロジェクトが進行中。
2014年には「うまのひづめ展望デッキ」が森の中に完成し、続けて「サウンドシェルター」が建つ予定(左側のパネルが完成予想CG)。「森の学校」のイメージ画の隅に、筏のようなものに繋がれた馬が描かれている理由は、山から伐り出した木材を馬で運搬する馬搬(ばはん)の伝統を受け継ぎ、現地で実践しているため。重機に頼らず、PJの構造物も鉄クギを使わずに制作する。
"裏山"と呼ぶには広く大きい敷地。古谷研の学生がつくったベンチなどは、全景模型でも木立の中に埋もれて点在しているので、会場スタッフに「コレは何か」と教えを乞うべし。
吉野材の事例のひとつに、長野県小諸市にある安藤百福記念自然体験活動指導者養成センターにおける「小諸ツリーハウスプロジェクト」として建てられた《又庵(yu-an)》がある(2012年、STUDIO NASCA。樹齢130年の吉野杉から製材された材が使われ、天井から床に真っすぐに揃った柾目の美しさが際立つ(上の画左側、および3枚上の場内・左側のバナー)
吉野林業は樽丸林業とも呼ばれ、酒樽に最適な木材として、特別に手をかけ、百年単位で育成される。上の画・会場のパネルでもわかるように、年輪幅が均等かつフシ目のない、油分が多いので色艶も美しい材となる(参考:吉野製材工業協同組合 吉野材センター公式サイト。だが、林業として苦境に立たされているのは国内いずこも同じ。
伐採材や端材を無駄にしない「吉野割箸」は明治期から作られている。古谷研のチームでは過去に、この高級割箸にふさわしい「箸袋」を提案したり、近鉄吉野駅に設置する幅18メートルの吉野材ベンチをデザインしている。

ところで、壁にかけられた展示パネルだが、これは会場の備品ではなく、古谷教授が持ち込んだもの。2014年に「古谷誠章展 NASCAが発想する建築」を開催した際、展示するスケッチなどのサイズに合わせてオリジナルで制作された。
前述「木質空間研究会」ではプロポーザルにも積極的に参加。2013年に竣工した熊本県の《山鹿市立鹿北小学校》では、地元産の杉材を採用。木造部分の間にRC造を挿入することで、構造と法規のハードルをクリアした大規模公共建築を実現させた(上の画、中央の写真が外観。内観はバナーで確認できる)。同作品は2015年度の日本建築学会作品選奨を受賞している(学会資料.pdf
さまざまなPJや事例から、国内産業の諸問題までみえてくる「木を知り、木を使い、木を活かす Vol.2」は8月6日まで(会期中無休)、開廊は11-18時。入場無料。

後日のリンク追記:
古谷研のサイトにアップされた、24日に開催されたトークショーと会場レポート
www.furuya.arch.waseda.ac.jp/2015/08/01/moku-ex-report/

会場:ギャラリー5610
www.deska.jp/




+飲食のメモ。
道を挟んで会場・5610番館の真向かいにある[crirrcross OMOTESANDO] にて軽食。真ん中にゆったりと設けられたテラス席を取り囲むようにして、奥にレストラン、オールデイカフェ[crisscross]、手前にベーカリー[breadworks 表参道店]がある。カフェはパンケーキが人気らしいが、ベーカリー[breadworks]で買ったパンを持ち込めるので、着席してドリンクのみ注文する。アイスティーは消費税込み¥500(おかわり自由、ブレンドコーヒーのホット¥600も同じく可)
トリュフ風味の4種のキノコピザ(¥380)、トングで掴んだ瞬間、ずっしりと重かったバナナマフィン(¥350)、ハモンセラーノとチーズのパン(¥180)。どれもおいしすぎてヤバいです。
ごちそうさまでした。

crirrcross OMOTESANDO
https://www.tysons.jp/omotesando

没後50年「写真家としてのル・コルビュジエ」展@早稲田大学會津八一記念博物館

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没後50年「写真家としてのル・コルビュジエ」展が早稲田大学《會津八一記念博物館》で開催されている。会期は今週末8月2日まで。

パリのル・コルビュジエ財団の協力を得て、ル・コルビュジエ(Le Corbusier / Charles-Edouard Jeanneret-Gris、1887-1965)が16mmフィルムで撮影した342点の写真と、18分41秒に編集された動画をみることができる。今のようなデジカメで撮ったそばから画を確認できる訳ではなく、暗室に籠って1枚1枚現像しなければ、意図した構図なのか確認できなかった時代。それでも、当時最先端のカメラを手に、近代建築の巨匠が愛する母や人々、旅行中の船の上や街で目にした一瞬を切りとる姿を想像するのは楽しい。何に興味を向けていたのかを。

館内および会場内撮影禁止。

会場の《會津八一記念博物館》は早稲田大学の図書館として1925年に建てられたもの。以降、2号館として使われた時代には、コルビュジエの弟子である吉阪正隆(1917-1980)が教鞭を執ったこともある。設計したのは今井兼次。それを1998年に同大学理工学術院教授の古谷誠章氏がコンバージョンした(参照元:INAX Renovation Archives 007。古谷教授は本展実行委員会の副委員長も務める。

同館での企画展を見に行くのは2009年の「戦争画の相貌 ―花岡萬舟連作―」以来。
会場には写真のほか、16mmフィルムのケース、コルビュジエ愛用の丸眼鏡も展示されている。左の画・フライヤー裏面のような置き方ではなく、眼鏡のつるを左右とも真っすぐ伸ばした状態で、ガラスケースの中に設けられた少し高い台の上にある。背を屈めると、レンズを通して、向かいの壁の展示写真を眺められる、という仕掛け。
動画「Films et photographies reakises Le Corbusier. 1936-1938」は毎時15分からの上映(再生時間18分41秒)。毎時40分からは「インタビュー 鈴木恂氏」も流れる(再生時間15分)

没後50年「写真家としてのル・コルビュジエ」展は8月2日まで(日曜・祝日は休館日だが、本展では開館)。開館10-17時、入館は30分前まで。入場無料。

早稲田大学會津八一記念博物館
www.waseda.jp/aizu/index-j.html




+飲食のメモ。
高田馬場と早稲田の間、馬場口交差点近くにある「茶々工房」にてランチ。
日本茶を取り揃えたカフェで、茶釜の湯で煎れてくれる。夏場に出る「白桃のかき氷」も感動的に美味しい。昼過ぎから夕方にかけて、皿に梅干しなど6種類の具を載せた「おにぎりセット(おにぎりは海苔を巻いた大きめの2個)」と、下記・数量限定「日替わり」が、お茶とセットでいただける。混雑のピーク時は4人掛けのテーブルで相席になる時も。
本日の日替わりは「シラスと枝豆と生姜のまぜごはん」。早稲田キャンパス周辺のデカ盛りを好む諸氏には物足りない量かもしれないが、しっとりと美味しい。夏バテのじぶんにもちょうど良い。ごちそうさまでした。
店の公式サイトがある筈なのだが、表示できないので、WEB「高田馬場新聞」の今年2月10日の記事にリンクを張る。

納谷建築設計事務所×HOWS Renovation《井の頭の家》内覧会

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(株)リビタが企画・事業主である武蔵野、井の頭の上水沿いに建つ《井の頭の家》を見学。
1984年(昭和59)に竣工した戸建て物件をリビタが取得し、納谷学氏と新氏が共同代表を務める納谷建築設計事務所を設計管理のパートナーに迎え、リノベーションしたもの。

この《井の頭の家》は、リビタが立ち上げた戸建てリノベーション事業「HOWS Renovation」が世に送り出す6つめの作品。同社はさらに12の戸建て中古物件を購入済みで、同様のリノベ・プロジェクトを進行中(会場配布物:ReBITA ニュースリリースより)

上水沿いの遊歩道から1階分下がった土地。緑はすぐ目の前。見学時は夕刻だったので、以降の画はやや暗いが、ロケーションは素晴らしい。
出入りは反対の道路側から。縦列で車が2台停められる長いアプローチ。奥まったところにあった門扉を取り払い、見通しを良くした。ドアの手前の緑はハナミズキ。
ここ数年は空家になっていた物件を、リビタが取得したのは昨年の秋。建物検査、構造検証など必要な段階を経て、約4ヶ月かけて改修した。1階はRC造、その上は木造の2階建て。建物面積は147.31平米。
改修前は、小さな玄関と廊下、2階に上がる階段室だった空間は、奥まで続く長い土間に。例えばマウンテンバイクを数台停められる余裕がある。
土間空間の突き当たりから内部の眺め。突き当たりが上水側。急勾配の崖地になっている庭に、桜、白樫、山椒の木が植わっている。
ところどころで部屋などが出っ張り、斜めの壁もある変形の家。1階の中央部分は元から吹き抜けで、4面を壁とサッシとで囲い、当初はサンルームとして設計されたと思われる。
「かなり個性の強い家で、そのままでは住まい手が限定されてしまうと感じました。先ずはニュートラルな状態へと要素をそぎ落としながら、住宅のような、別荘なような、その中間的な空間を全体で目指しました。それから、あちらこちらに人の"居場所"を用意しています」納谷建築設計事務所納谷新氏 談)
事業主であるリビタとしても、住まい手の移り変わり、ライフスタイルや家族構成の変化によって、住宅が単なる消費材に陥るという悪循環から脱却し、社会資産となるようなリノベーション住宅を求めた。○○室という名称と用途を最初から押し付けず、例えば玄関の土間のように、空間に「余白」をもたせている。コンセプトは「自ら丁寧に手を入れる暮らし」。
このコンセプトに基づき、1,2階は共にいたって緩やかに仕切られている。1階にはRC壁が残り、引き戸の扉で閉じることもできるが、開け放てば1室空間に近い(オフィスとしても使えるのではないかという印象)
上の画・見上げた正面の窓と、階段出入口は新たに開けた。サッシも全て交換している。
前述した通り、この吹き抜けは以前、四方を壁とサッシに囲まれ、1-2階を結ぶ階段もフロアの隅にあった。
階段を上がったところから、吹き抜けを挟んで、上水の緑に面したバルコニーの眺め。
2階 キッチン、ダイニング、リビングとして使える大空間。壁と天井は断熱改修済みの上から構造用合板で仕上げ。床材はロシアンバーチ。「耐久性があり、表面も通常のラーチ材と違ってささくれだっていないので、裸足で歩いても優しい弾力性が感じられるのが気に入っている」と納谷さん。近く竣工予定の幼稚園《昭和こども園》でも、主な床材として採用しているとのこと。
天井の上は片流れの屋根。"リビング"の側(下の画)のみ踏襲し、キッチンが置かれた側は切妻としている。約21畳という"がらんどう"の空間が単調になってしまうのを避けるためと、緩やかに居場所をつくってあげている。
"リビング"の側の天井には間接照明も仕込まれ、夕方以降は雰囲気たっぷり。
テーブルの上に広げられた、リノベーション前と工事中の様子がうかがえる記録写真の数々。
造作のキッチンが設置された辺りはが、改修前は階段室だったところ。厨房機器はガスではなく最新のIH。カウンターの下は使い勝手を住まい手に任せて"がらんどう"に。
水まわりは吹き抜けを挟んだ反対側の1室に集約。この据置式浴槽は初めて見た。
横に長い洗面台と、トイレ、腰壁の向こうが洗濯機パンという配置。見学者のひとりが「ウチ(のワンルームアパート)と同じくらいかも」と冗談混じりに言い表していたくらいに広い。納谷さんいわく、「別にここで本を読んだり、音楽を聴いたり、好きに過ごして欲しい。言い換えれば、本を読みふけっていた場所がたまたまトイレだった、という具合に」。
水まわり空間からは外のバルコニーに出られる。上水の緑はすぐ目の前。ウォーキングや犬の散歩を楽しむ人々が往来する遊歩道のレベルとほぼ同じなので、リノベ前は厚い腰壁が回っていたが、黒いフェンスに変えて、豊かな緑を内側に引き込んだ。逆に、網フェンスだった敷地境界線の柵は木製に変えて目隠しに。
バルコニーは前述のリビングとも繋がっている。新たに敷設したデッキの材はレッドシダー。吹き抜け空間を挟んだ室内の床もレッドシダー。貼りの方向を同じに揃えて、外と内の空間に連続性をもたせている。
納谷建築設計事務所×ReBITA《井の頭の家》は分譲物件。価格など詳細は、リビタによる「HOWS Renovation Lab.」サイトのページほかにリンクを張る。

参考:Rebitaによる納谷新氏へのインタビュー「部屋名のない居場所を楽しむ!」01,02
http://hows-renovation.com/partners/inokashira_001/


吹き抜け空間のガラスを覆うように、緑の葉と枝を広げた桜の木。都内でも有数の桜の名所たる恩師公園が徒歩圏内だが、混雑と喧噪と無縁の花見が毎春楽しめるだろう。

なお、リビタはこの内覧会の2日前、新たに「シェア型複合ホテル」プロジェクトを全国展開すると発表しており、こちらも注目される(ReBITA ニュースリリース




+飲食のメモ。
蝉が大合唱している公園を抜け、吉祥寺駅方面へ。丸井吉祥寺1階にオープンした「BUON'AMORE(ブオン・アモーレ)」でひと休み。

砂糖不使用ながらしっかり濃厚なジェラートと、豊富なドライフルーツを中心としたグラノーラの専門店。一番人気という「ハニーラテ」に、店頭のベンチなどですぐ食べる場合のみ無料でつく、4種類から選べるフルーツ・グラノーラと、5種類のソースから、黒蜜とビューティクランチなるトッピングをかけていただく(350円+消費税)
合う。正解。美味っしい。
ごちそうさまでした。

BUON'AMORE(ブオン・アモーレ)
http://buon-amore.com/

アトリエハコ《本町の住宅》オープンハウス

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アトリエハコ建築設計事務所によるオープンハウスを見学。

立地は都内の第一種住居地域で、奥に長い敷地面積は約13坪。区が定める建ぺい率と、容積率のバランスをはかり、光に満ちた室内空間を最大限に確保した、地上3階の木造住宅。

施主が希望したのは"小屋っぽい家"。この外観をチラと見ただけでは、設計および施工の労苦は全く窺い知れず。アトリエハコ建築設計事務所の代表を共同で務める七島幸之さんと佐野友美さんに現場であれこれと教わり、住宅密集地にはつきものの各種法規制をクリアし、活用したうえで、建っているとわかる。

前面道路からのセットバックは天空率との絡み。但し、この条件で建ぺい率いっぱい(60%)に建てた場合、こんどは容積率(160%)をオーバーしてしまう。そのため、玄関前にポーチ、室内に吹き抜けを設けるなどして適合させている。
3.9mの幅に対して、建物の短辺は2.9m。敷地も細くてカーブした道の先にある。ゆえに工事は苦労の連続。横方向への耐震性能を確保するため、当初考えていた柱状改良ができず、先端羽根付き鋼管杭を打ち込む方法に変更して地盤改良を行なった。基礎部分の生コン打設では、敷地の前まではどうにか搬入できたミキサーとの間を手押し車でピストン輸送。複雑な木軸の柱と梁も全て人力で上げた(工事の様子は事務所のブログを参照)
準防火地域だったこともあり、外装は素地のガルバリウム鋼板の横張り。長辺側の施工では、既製品の最大尺6mママでは搬入できず、半分にカットした部材で施工した。
出隅・入隅の仕上げがとてもきれいで、中に入る前からまじまじと見てしまった。
オープンハウス後、区によるセットバック工事が済んでから、玄関まわりの植栽を行なわれる予定。十字桟が入った玄関の観音扉は、外からは木製っぽく見えたが、スチール製の特注品。
施主夫妻の交友関係の広さを反映して見学者多数、手荷物預かりを置いても余裕ある玄関。ご主人の生家には土間があり、また海外での生活で広い玄関の使い勝手にも慣れていたので、多目的に使えるエントランスをと望まれ、1階の約1/4を占める。天井にはレール可動式のスポットライトを用意。
改めて、玄関先から内部の様子。
モルタル仕上げの土間の先、正面にみえる引き戸の奥に施主夫妻の寝室がある。
新しいおうちができたハレの日に、ハイテンションの子どもたち。
なお、通常のオープンハウスは引き渡し前に行なわれるため"がらんどう"だが、今回は施主の厚意により、事前に家具類が運び込まれ、生活感の演出に協力してくださっている。
トイレは階段下のスペースに格納。
ずどんと埋め込んだ支柱に支えられた鉄骨階段。但し、1-2階部分の踏面と蹴込はバーチフローリング仕上げ、2階から上は鉄骨+白色塗装として、ビジュアルにも変化をつけている。
2階に着いたところから、フロアが左右に分かれる。上の写真の左手側がリビング、段差が連続して高くなっている右側にダイニングとキッチンがある。
段差の上から、2階リビングの眺め。
テレビ台は置かず、壁に直接取り付けた。壁付きの家具はデンマーク製のウォールユニット。キャビネット、チェスト、棚板の位置をタボ穴で調整できる。この家具の連なりにあわせて、リビングのスケールも自ずと決まった。
外から見上げた時はごくふつうのサッシ窓だったが、内部には木製の十字桟が取り付けられていた。木の窓枠とあわせて、雰囲気のある窓辺空間を演出。
リビングの奥から、階段空間を挟んで、ダイニング+キッチンの見通し。スキップフロアになっていることがわかる。右手の壁にはハイサイドライトが3つ。
ダイニング+キッチンの天井見上げ。2箇所に開口があり、吹き抜けになっている。最も暗いはずの北側が、驚くほど光溢れる空間に。かつ、この"抜け"によって、容積率の課題もクリアしている。
キッチンは施主の要望にあわせて造作。
家族の食卓は吹き抜けの真下に。
ダイニングのスツール(artekのStool 60)に腰掛けての3階見上げ。
下の写真は逆に上からの2階見下ろし。
気付けば2時間ほどこの家に長居したのだが、吹き抜け空間で刻々と変化する光と影がとても美しかった。この光の効果を生かすため、内装はこの白さにこだわった。
階段空間にて、2階からの見上げ。
2階から3階へ向かう途中の見下ろし。この階段も建築基準法の定める数値内の納まり。
3階に到着。バスルームと洗面室は、ダイニング+キッチンの真上に位置する。
バスルーム。手摺りの向こうがキッチンの吹き抜け。換気ダクトが見えている。
1階のドアにも使われていたが、床材は構造用合板のカナダ製OSBパネル。
洗面台脇の袖壁や、子ども部屋の材もOSBで統一。袖壁は入浴時に服を脱ぎ着する際の一応の目隠しにはなるが、仕切りは緩い。今のところカーテンで仕切る予定もない。
水まわりの反対・南側に、子どものための部屋が2つ並ぶ。こちらの壁はオイル塗装で仕上げず、変化をつけている。2室の間は引き残し無しでスッキリ格納できる引き戸で仕切る。
オープンハウス開催直前に納まったという、子ども部屋クローゼットのハンガー掛け。材はなんとガス管。施主のライフスタイルを踏まえて、アトリエハコが提案したアイデアを実現したもの。
これからデスクなどが入る子ども部屋。寝る場所は窓に面して設けた"2段ベッド"で。
手前の子ども部屋の主が専有するベッドルーム。まるで秘密基地だ。

「施主夫妻はデザイン関係の仕事をしているので、細部にこだわりをお持ちでしたが、こちらの提案に対し、具体的なイメージをパッと共有してくれました。主に下地材として使われるOSBも、インダストリアルなテクスチャーとして面白がってくれたり、空間の捉え方やセンスの面で多くを共有できたことは、大きな助けとなりました」(七島さん&佐野さん談)。事務所が手掛けた《オシアゲマンションリノベーション》の施主を通して知り合い、今回の設計依頼があったとのこと。
「屋上は絶対に欲しい」というリクエストも実現。まわりに高い建物がないので、塔屋から出てきた時の開放感が大きい。
屋上・道路側から北側の眺め。右奥の天窓は、2階キッチンの吹き抜けの上。
家族の生活に必要な各部屋を、
中央の階段を介して柔らかく繋げました。
天井高や光の取り入れ方などそれぞれにニュアンスの異なる空間と、
それらを繋ぐ居場所としての階段。


案内状のテキストにあった通り、まさに「周囲を近隣家屋に取り囲まれているとは思えない、 シークエンス豊かな、光に包まれたインテリアの住まい」でした。

アトリエハコ建築設計事務所
www.hako-arch.com/




+飲食のメモ。
案内状の地図に目印のひとつとして記されていたこちらのお店。てっきりアトリエハコのおふたりが工事中に通い詰めたのであろうと思いきや、「ずっと気になっていながら未だ一度も」と意外な返し。お施主さんの笑諾も得て、以下に併記。
基本的に日曜の9-19時しか営業しないというおかし屋さん [Sunday Bake] 。慣れた感じの常連客がひっきりなしに訪れ、大盛況。

店の公式ブログを読むと、この日は店の旧知のコーヒーショップ(Ashore coffee shack)のバリスタ氏が出張営業していたらしい。
ジャムとクリームがサンドされたビクトリアスポンジ(¥450)とアイスコーヒー(¥400)を、たまたま空いていたカウンター席でいただく。テイクアウトしたバナナブレッド(¥350)とコーンミールアーモンドブレッド(¥400)も、ざっくりと粗い、好みの生地で、たいへん美味しゅうございました(しかも大きいからウレシイ)。ごちそうさまでした。

Sunday Bake
http://sundaybakeshop.com/

「画鬼・暁斎—KYOSAI」@三菱一号館美術館 9/6まで

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東京・丸の内の三菱一号館美術館で開催中の「画鬼・暁斎—KYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドル」もいよいよ明々後日の日曜日まで。館内はいわゆる"記念撮影ポイント"1箇所を除いて撮影禁止。
中盤で展示替えがあったので、見逃した作品は図録で。2本収録の対談のうち、巻頭にドナルド・キーン氏、続いて隈研吾氏が登場。但し、今日の時点で在庫切れ・増刷中なので、ミュージアムショップで図録の本体代金(消費税込み¥2,200)を支払えば、送料主催者負担で後日送付してくれる。

ジョサイア・コンドル(1852 -1920)の来日は1877年。河鍋狂斎こと暁斎(1831-1889)最晩年の弟子となり、河鍋暁英として手ほどきを受けた墨画や着彩作品は後期展示では5点ほどであった。ほか、スケッチブックや『Landscape Gardening in Japan』の見開きなども。本展会場でもある《三菱一号館》や《岩崎邸》の図面もあり。明治16年に建てられた《鹿鳴館》の階段の一部や壁紙(金唐紙)まで出展されていたのにはちょっと驚いた。
関連グッズは充実。出展作品「暁斎絵日記」の絵柄がモチーフの手拭いは800円。

会期は9月6日(日)まで、10-18時(金曜と会期最終週平日は20時まで開館、入場は閉館30分前まで)

「画鬼・暁斎—KYOSAI」特設サイト
http://mimt.jp/kyosai/




+飲食のメモ。
館内のカフェ[Café1894]では「文明開化ランチ」など暁斎展連動メニューもあるが、道を挟んで南側にある《東京国際フォーラム》のネオ屋台村へ。日替わりで5-6台の屋台が公共スペースに停まっている。行った時間帯で一番行列が長かった「Flapper」の最後尾に並ぶ。
「もちこ☆チキン」の味付けは4種類。定番のハワイアンシーソルトとハニーマスタードをオーダー。half & falf でもお値段変わらずの650円はうれしい。回転が早いので、米粉をつけたというキチンは揚げたて。
おいしゅうございました。ごちそうさまでした。

ネオ屋台村
http://www.w-tokyodo.com/neostall/

「舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに」@練馬区美

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明後日の日曜まで 練馬区立美術館で開催されている「舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに」を観る(場内撮影禁止)
展覧会チケットのビジュアルは1940年の作品《隕石》。戦争まっただ中、椎名町の石材屋からリアカーで練馬のアトリエまで運んだという大理石「紅霰(べにあられ)」と思われる。フライヤービジュアルの《聖クララ》は後年の「砂岩(諫早石)」による彫刻。諫早石による作品にはほのかな着色が見られ、あれこれ試した末の紅茶の残りで染めたと解説文にもあった。

作品の造形美はもちろんのこと、石の肌理、ほか素材感も強烈であった。
今井兼次が設計し、1962年に第14回日本建築学会賞を受賞している《日本二十六聖人記念館》の外部壁面に嵌め込まれたブロンズ像《長崎26殉教者記念像》は、会場出展の4点は同じ型からの複製で、作家の手元に置かれた後に岩手県立美術館に寄贈されたもの。素材はFRP(には見えない!)。会場では26体を施工した大成建設が撮影した資料映像(7分間に編集されたもの)を見ることができる。
参考:[インターネットミュージアム]サイト会場レポート

出展作品の殆どは作家の出身地である岩手の県立美術館から。岩手県美、郡山市美と巡回し、練馬区美でラスト。会期も残り僅か、8月下旬にBS番組「ぶらぶら美術・博物館」で(舟越桂氏のギャラリーツアー付きで)紹介されたとあってか、平日金曜夕方でも混んでいた。入館は閉館30分前までなので、その頃になると会場は空く。

練馬区立美術館
www.neribun.or.jp/museum.html




+飲食のメモ。
館内1階のセルフ式のカフェにて、コーヒーセットをいただく。地元の洋菓子店「どんぐりの木」のシュークリーム付きで消費税込み530円。「やきたて」と云うていたので、おそらくカスタードクリームをその場で詰めて出しているようだ。 閉館30分前にオーダーストップ。
画はピンボケですが、おいしゅうございました。ごちそうさまでした。

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